
『坂道のアポロン』を読み、観る。
小玉ユキの漫画がとても好きで、漫画を読みながらも、実写版映画の『坂道のアポロン』も観てみた。まず私が感じる小玉ユキの漫画作品の素晴らしさから書いてみよう。
線が美しい、絵が綺麗。そして田舎の風景や人間関係の濃さがとてもリアルに表されている。青春のきらめきもわざとらしくなく描かれ、思春期のせつない感情やもどかしい感情の表現に、つい自分のその頃を思い出してしまう。
私の父は大分出身で、母は福井出身。どちらも県の中心からもかなり離れた自然しかないような場所にある。神奈川や東京で育った私だが、幼い頃から大学一年生くらいまでは、ほぼ毎年どちらかの実家で夏休みや冬休みを過ごしていた。
その時に見た景色や感じた空気、親戚も近所の人達も一緒くたに生活している様子、そして東京では聞けない方言の数々。小玉ユキの作品を読むと、すごく懐かしい子供の頃の夏休みや冬休みの時間が蘇ってくる。
実写版の『坂道のアポロン』もなかなかに良かった。この作品のテーマのひとつにジャズがあり、主人公の薫はピアノ、友人の千太郎はドラムを演奏する、そのシーンが最高だった。俳優達も本当に良い演技をしていて、心に響く場面が沢山あった。
ジャズのアドリブや掛け合いは会話と同じで、お互いの思いや情熱を音で交わし合う。喧嘩をしても、ジャズを共に演奏すれば、薫と千太郎はすぐに仲直りできるのだ。小松菜奈が演じるヒロイン役の律子も本当に可憐で、漫画の律子を先に知っていても違和感なく観られた。
ジャズが大好きな私にとって、劇中の音楽には心が震えた。アートブレーキーのMoanin'、元々はミュージカル、サウンドオブミュージックのなかのMy Favorite Things、私が愛するチェットベイカーがよく歌っていたBut not for meなどなど。ジャズって本当にかっこいい。
ストーリーはhappyな展開ばかりではないから、少し苦しくなる場面もあるけど、全体的には原作の雰囲気は保ったまま、青春の瑞々しさや人生のままならなさなどの原作で感じたメッセージは映画からも伝わってきて、とても良かった。
それにしても中川大志って、観る作品で全然変わるなとあらためて驚いた。漫画の中の一見粗野で乱暴に見えて、実は優しく繊細な千太郎を映画のなかでしっかり体現していたし、歩き方や声の出し方など、すごく研究したんだろうなと感じた。
小玉ユキ作品はどれも大好きだから、まだ観てないアニメ版も観たいし、新作の狼少女の話も面白そうだから、しばらくは楽しめそうだ。私も方言のある地方で生まれ育ちたかった、と子供の頃から感じている。いとこ達は東京にとても憧れていたから、ないものねだりなんだろうな。
映画を思い出しながら、今日も懲りずにたどたどしいピアノを弾いてみようと思う。そして漫画の坂道のアポロンを何度も読み返して、郷愁に浸ろう。