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教員のメンタルを蝕む「べき思考」(後編)

前回、「べき思考」がどのように若手教員のメンタルを蝕むのかという点について書いた。

今日はその続き。
「べき思考」に満ちた環境の中で、教員を細く長く続けるためにどのようにメンタルを保っていくのか、私が考えていることを書いていく。

教員のマインドセットを形作る「べき思考」

前回も言った通り、学校現場は多くの「べき思考」で支えられている。
例えば
「生徒は全員が集中するべき」
「全員が自分が指導している教科を好きでいるべき」
「全員が真面目な生徒になるべき」
「生徒は全員が校則を守るべき」
「教員は熱心であるべき」
「教員はプライベートよりも生徒を優先すべき」
などである。

そのため教員をやっていると、自然と自分自身や生徒の「できていない」ところだけがシミのように目について、それをきれいにしないと気が済まないというマインドセットに自然となってくる。
しかし、上記のような「べき思考」に基づいて行動し続けていると、理想と現実の乖離に苦しめられ、メンタルを蝕まれ、長くは続けられなくなってしまう。

じゃあ、教員はどんなマインドセットを持てばいいのだろうか?

「べき思考」を現実的なものに調整していく

メンタルを保ち、細く長く教員を続けるために必要なこと。
それは、上記のような非現実的なスタンダードを、現実に合わせて自分の中で調整していくということである。

例えば、
「70%~80%の生徒が集中できていれば授業として成立するので、自分の仕事はまっとうできている」
「午後は誰だって眠くなる。だから、午後の授業で生徒が話を聞いてくれなくても当然だ」
「教員だって人間であり、やる気や集中力にムラがあるものだ。だから、毎回の授業で100点を目指さなくたっていい」
「授業で自分が「上手くいかなかった」と思ったとしても、少数の生徒には刺さっているかもしれない」
「学校は失敗するためにある。校則を破ったり、問題を起こして指導されることも、彼らの人生の糧になっている」
などである。

実際私は、メンタルが苦しくなってくると、自分自身がどのような「べき思考」に縛られて仕事をしているのかを考えて、それらを現実的なものに調整するように心がけている。
このような調整をするようになってから、仕事に行くのが楽になったし、メンタルの浮き沈みがだいぶ軽減されたように感じる。

生徒も私も生き物だから

前回の記事で書いた、「銭湯」の例のように、人間は本来とても多様である。
何を心地よいと思うのか、不快に思うのか、何にやる気を感じて何でやる気を失うのか。
それらに共通項はあるかもしれないが、感覚は一人一人微妙に異なっているはずだ。
さらに、人間一人の中にも多様性がある。
時間帯や季節によっても気分や体調は変わるし、先生に見せている顔と両親に見せている顔、友達に見せている顔が全然違ったりもする。

だから、生徒が自分の予想通りに動かないことは、わりと「当たり前」のことなのであり、先生の実力不足だけに起因するものではないことを、若手教員は知っておくべきだと思う。

でないと、自責思考に縛られてメンタルがやられる。
(そうでないタフな人だけが学校現場に残っていける、という考え方もある。しかし、タフじゃない人も続けられる学校現場でなければ、学校は教員にとっても生徒にとってもどんどん窮屈な場所になってしまうと思う。このことについてはまたいつか書きたい)

自分の学生時代を振り返ると、1限から7限まで毎日50分ずつ授業を受けなければならない生活は、なかなかに非人間的で疲れるものだったなと思う。
だから、集中力にムラはもちろんあったし、人間関係の悩みなんてあった日には授業どころではなかったことを覚えている。
私は勉強が好きな方だったので、授業内でやることをギッチギチに詰めている先生の授業は充実感があって好きだった。
しかしそれでも、長々と授業に関係のない雑談をしてくれる先生がいると、ガス抜きになってほっとしたのを覚えている。

そうやって自分の過去を振り返ってみても、
「「全力」と「完璧」が最も教育的である」という考え方がいかに非現実的・非人間的かを痛感する。
こういう考え方、もうやめませんか?

自分にできることをできる分だけすればよい

生徒が問題行動をするのは、あなただけの責任ではない。
家庭環境、小学校時代のトラウマ、人間関係の悩みなど、あなた以外の多くの要素に影響を受けて、目の前の生徒という存在が成り立っているからだ。
授業が上手くいかなかったのは、あなたのせいではなく時間帯のせいかもしれないし、前の授業がギッチギチすぎて、生徒たちがガス抜きを求めていただけかもしれない。

他人は所詮、コントロール不可能なものだ。
そして、あなたの責任範囲は思っているより狭い。
あなたには、ヒトひとり分の影響力しかないのだから。

そうやって聞くと少し残念な感じもするが、ポジティブなことでもあると思う。
なぜなら、生徒の未来を、過剰に背負い込みすぎなくていいということだからだ。

だから、
「自分にできることをできる分だけすればよい。あとは知らん。」
このマインドセットに尽きると思う。

あとがき

今回書いた内容は、タフな先生たちや一昔前の世代の先生方には、もしかしたらまったく共感してもらえないかもしれません。
しかし、学校現場の色々なことにモヤモヤしながら日々をサバイブしている先生方には、多少は共感してもらえるのではないかと思っています。

何かご意見や議論したいことがあればぜひコメント等お願い致します。

(👇前回記事はこちら)


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