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セブンがカナダの会社に!?(5分で読む国際的企業買収)


どんなニュース?

ビックリするニュースが2024年8月19日に流れました。コンビニ最大手のセブンイレブンや、スーパー大手のイトーヨーカ堂を保有するセブン&アイ・ホールディングスがカナダのコンビニ大手の会社から買収提案を受けたと言うものです。名乗りをあげているのはアリマンタシオン・クシュタール社。日本で馴染みのあるところではサークルKの親会社です。北米や欧州ではクシュタールの看板でコンビニをやっています。ちなみにクシュタールというのはフランス語で「夜更かし」という意味だそうです。クシュタールは少し打ちにくいので、この後は「夜更かし」と呼びます。

なぜ、いまセブンなのか?

では、この夜更かし、なぜこのタイミングで、セブンに目をつけたのでしょうか?いくつかの仮説をあげてみたいと思います。

仮説その1)お買い得だから

夜更かし、日本では馴染みありませんよね。まずは夜更かしの基本情報をセブンと比較しながらどんな企業なのか見てみましょう。

店舗は北米や欧州を中心に1万7000店舗あります(セブンはアジアや北米で8万店舗以上)店舗数で言えば、セブンの方が圧倒的に多いことがわかります。

続いて売り上げ金額は、約10兆円です(セブンは約11兆円)店舗数の割に売上高が大きいのはガソリンスタンド併設の店舗が多い影響と思われます。

そして時価総額ですが、現在約8.4兆円(セブンはこの話が出て一気に上下動しましたが、その直前で約4.5兆円)で、セブンを大きく上回っています。

時価総額を見る限りは夜更かしはセブンより企業価値が高いと言えます。そして、この夜更かし、サークルKを2003年に買収したり、買収で大きく成長してきた経緯がある中で、過去2回(2005年と2020年)セブンの買収提案をしてきたと言われています。そして今回が、3回目の提案となります。

参考までに過去2回の時の為替を見てみましょう。

2005年 為替 終値118円               
2020年 為替 終値103円 
2024年 為替 150円前後 

一目瞭然で、過去2回の買収提案時期に比べて円安となっています。単純に為替だけ見て、今がお買い時と言えなくはありません。ただし、円安自体は2年間ぐらい続いている中で、それが最大の理由ということはないのではという意見もあります。そして蛇足ながら、こうした意見の延長には、同じ理由で、今後雪崩を打ったように外資による日本企業買収が一気に増えるわけではないだろうという見方があります。

話を戻します。では、他の要因を考えてみます。

仮説その2)アメリカでのコンビニ事業が過渡期を迎えようとしているから

この夜更かし、いわゆるファンドではありません。同業です。ということは、安く売って高くうる目的ではないというのがもっぱらの見方です。ずばり狙いはアメリカでの事業拡大と言われています。アメリカのコンビニ業界は今後も一定の成長が見込まれています。一方で、夜更かしは先にも言いましたが、ガソリンスタンド併設が多く、今後ガソリン需要の減少が見込まれる中、業界が成長基調にある間に次の手を打ちたいというのは必然かと思われます。そこでそもそもアメリカ発祥で、かつアメリカで確固たる地位を築いているセブンがお買い得であれば、目をつけないわけがありません。

少し横道に逸れます。後にも触れますが、そうなると夜更かしの視線はアメリカ市場であり、日本市場ではないとしたら、日本でのセブンの展開は、仮にこの買収が成立したとして、消費者の立場からはそれほど大きな変化はものはないかもしれません。

話を元に戻します。ただし仮にこの話、実現に向けて動いたとして、1位と2位の統合は日本で言うところの独占禁止に当たるので一筋縄ではいかないことが予想されます。とはいえM&Aで成長してきた夜更かしなので、この辺は織り込み済みという見方もあります。

仮説その3)セブンがイトーヨーカ堂閉店を加速しているから

では、日本国内の状況に目を映してみましょう。元々はイトーヨーカ堂からのスタートだったセブンですが、昨今大幅なリストラを強いられています。特に東日本エリアでは加速度的に進んでいて、2025年にはイトーヨーカ堂がない道県が10近くになると言われています。

夜更かしが買収するとしても、ここは課題となるのは畢竟です。ただし外資が買収後にリストラをするとなると日本国民の反発は大きいものになると予想されます。それが、今セブン側自らが行なっているというのは夜更かしにとっては追い風と言えるでしょう。自らが矢面に立つことなく、すなわち批判の的になることなく、流れとしてリストラができるのは彼らにとって好機と言えます。

仮説その4)現状経済安全保障外だから

もう一つ最後に挙げておきたいのは、日カの経済安全保障からの洞察です。この観点で言うと、コンビニは直接的には買収に制限がかかる領域ではありません。よって、この点からも今の段階であれば買収に対する公的な制限がかかる心配はないと言えます。

また国際的な経済安全保障とは少しズレますが、セブンが今回特別委員会を設けて提案を検討するのは、企業買収に関する経産省の指針が昨年出されたことによると言われています。その指針では買収の活発化により企業価値が向上し、株主の利益を確保することが謳われています。実際、この指針の公表後、第一生命HDがベネフィット・ワンの買収を同意なきままに行われ、大きなニュースとなった。これなどはかつてであれば、合理的な理由がないと言うことで、成立しなかったかもしれません。国の指針的には止めるものではないものの、この買収が与える影響は、セブンが今や買い物インフラの基幹となっている日本にとって小さくないと言えるので、今後の動きには注目が必要と言えます。

以上、仮説を挙げてきましたが、どれもそれだけが決め手ではなく複合的な要因によるものと考えられます。逆に言えば、複合的に見て、今が最適と考えて提案をしてきたとも言えるのかもしれません。

セブンが買われるとどうなるの?

ここまで、夜更かしがセブンを買収しようとしている理由についてみてきました。次に、夜更かしがセブンを買収すると日本国内でセブンはどうなるのでしょうか?

周りにあるセブンは変わるの?

前述の通り、事業のシナジー視点で言うと、夜更かしにとっては、今のところアメリカ市場が最も重要な市場と言えます。また、日本国内サークルKは2018年にファミリーマートに吸収され、今まで日本では足場がありませんでした。また、日本ではガソリンスタンド併設型のコンビニは、あるにはありますが主流ではありません。そう言う意味では、土地勘のない日本で、セブンに対して夜更かし流を押し付ける合理的理由はないと思われます。もちろん、不採算部門であるイトーヨーカ堂のリストラについては、経営の合理性の観点から、さらに加速する恐れはあると言えます。

本当に買われるの?

では、この買収本当に成立するのでしょうか?

日本の国が出した企業買収の指針から言えること

多摩大学の真壁教授は、「近年、防衛機器やエネルギー、医療、サイバーセキュリティ―、半導体などに加え、食料分野においても経済安全保障の重要性が高まっている。今後、アリマンタシォンによるセブン株取得や、アクティビストによる国内企業への投資などに、日本政府がどう関与するか、注目すべきことが増えるだろう」と語っています。このように経済安全保障の観点で、生活インフラとなっているセブン及びイトーヨーカ堂を夜更かし側が日本でどうしようとしているのかによって、介入することも考えられると言う意見があります。

一方で、京都大学の松本教授は「提案側が投資ファンドではなく、同じ事業を展開している企業であることから、買い叩いて売り抜く目的ではないだろう」と夜更かし側の本気度に注目している意見もあります。

いずれにしてもこうした買収が成立した際には、日本の他企業にも同様の可能性が出てくると言えるでしょう。

買収側の緊急度から言えること

緊急度という点で言えば、逼迫している状況ではないものの先にも述べたように、夜更かし側からしたら、総合的に好機と言える状況とも捉えられます。経済安全保障の観点、円安、アメリカ市場における再編の必要性、これらの点でどれも今を逃すと、これ以上の好機が訪れる保証はありません。そう言う意味で、かなり本気で臨んでくるのでは、ないかと思われます。もちろんアメリカ国内での市場独占性や、日本サイドの国による干渉の可能性など、障壁は大きいと思われますので、簡単ではないことも確かです。

まとめ

今回の買収劇は、国際的にみても、そして日本国内にとっても大きな意味を持つものになると言えます。これが成立したら、他の業界、例えば食品業界、化粧品業界などでも起きるのではと予測する有識者もいます。いずれにしても国際的に成熟市場となっていて、日本企業がその中でも割安に見える業界がそのターゲットにされる可能性は十分あります。その点でも今回どうなるかはしっかりみなさんとウォッチしていきたいところです。

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