自分の嗅覚を信じる
ある日、通りすがった某有名ブランドのカウンターできらびやかに並べられた香水を眺めていた。
販売員がやってきて「何かお探しですか」と尋ねてきた。
「夏っぽい香りとかお勧めの香りはありますか」などとわりと買う気満々で返事をした。
販売員さんはひとつの香水をムエットに吹きかけて、私に手渡してくれた。
「グレープフルーツの香りがしますね」
販売員は
「こちらは洋ナシとキンモクセイの香りです」
と、まるで私のグレープフルーツ説をサラッとスルーし、否定するかのように言った。
以前の私なら、自分の嗅覚のダメさを慰めるかのように、その香水を買っていったかもしれない。
しかし、今の私は知っている。
グレープフルーツそのものは入っていないとしても、別の香料の共通の成分として入っている可能性があるかもしれないことを。
非常に簡単な例で言うと、レモンに含まれているリモネン、その香水にレモンの香料が入っていなくても、オレンジやゆず、グレープフルーツなどの柑橘系香料が使われていれば、リモネンも含まれている可能性がある。
同じようなことは他の香料にも言える。
ゲラニオールはゼラニウムから発見された化合物であるが、ゼラニウムだけではなく、レモンやモモ、スイカ、ブルーベリー、ローズオイルなど、多くの植物に含まれている。
香水の成分として、ブルーベリーが明記されていなくても、ゲラニオールの香りを捉えて「ブルーベリーが入っているのでは」と感じる人もいるかもしれない。
だから、「この香りがする」という感覚は否定されるべきものではないのだ。
先日書いたこちらの記事には、そういったことも実は暗に匂わせている。
「私たちは香料だけで香水選びをしていないだろうか」
接客をしてくれた販売員がそういったことを知っているかどうかはわからないが、香水を販売する老舗ブランドの接客としてはどうなのだろうと思ったらとたんに買う気が失せてしまい、私は最高の笑顔で売り場を後にした。
私は香水の素人だから、香料やその成分の詳しいことはこれ以上語れない。
ただ、香水の売り買いの場で、私たちはもっと香り以外の情報から自由になるべきではないかと思っている。(正確には自由になる「べき」という言葉も必要ないくらいに)
例えば、ブランド、ボトルデザイン、ネーミング、香料、天然香料か合成か、CMキャラやイメージ、ストーリー、それらはもしかしたら良い香り・好きな香り探しの邪魔をしているのではないだろうか。
ところで、そのブランドで試香した香水、帰宅後、レシピを確認したらグレープフルーツ入ってたよ。