感謝を込めて
ブドウ樹も落葉し、本格的な冬の到来を感じています。2023年も残すところあとわずかとなりました。皆様にとって、今年はどのような年でしたでしょうか。
当ワイナリー創業100周年と相まって、私自身は駆け抜けた一年となりました。
3月に香港、オーストラリアでの百周年を記念するワインイベント、6月には三澤農場の一部で有機JAS認証を取得、8月にスパークリングワインのロットの収穫が始まり、全体を通して過去最高の熟度となった今年のブドウ。
醸造期が終わるや否や、11月末には、イギリスより、コート・オブ・マスターソムリエ・ヨーロッパの最高経営責任者、ロナン・セイバンMS(マスターソムリエ)をお招きし、京都と東京で、これまでお支えいただいた酒販店様、飲食店様へワインセミナーを開催させていただきました。
私自身、世界のワインの中で、甲州はどの品種と共通点があり、日本ワインやグレイスワインがどの立ち位置にいるのかを理解しようと努めて来たことから、「国際的視点から風土と熟成を考える」をテーマにさせていただきました。
ロナン・セイバンMSは、低pHやはつらつとした酸、低アルコール、また通常、樽を使用しないワイン醸造の観点から、甲州と比較する品種としてリースリングを例として挙げました。
また、ギリシャのアシルティコやハンガリーのフルミントや、イタリアの土着品種など、今、世界で支持を受けている白ワインの固有品種には、火山灰質土壌を持つ品種が多いことも甲州の共通点として挙げ、甲州や日本ワインの弱味と強味を分析しながらテイスティングを行いました。
甲州は唯一無二で、他に変わる品種がないと信じる中で、グレイスワインや日本ワインが世界のワインの中で、どの位置にいるのか客観的に掘り下げることは時に残酷でもあります。
しかし、そうやって立ち位置を理解しながら、ここ10年のグレイスワインが海外の厳しい目線に晒されて成長してきたことも、100年の歴史の通過点と感じています。
ワインセミナー後のディナーでは、祖父、父、私、それぞれが手がけたグレイスワインをお楽しみいただきました。
そして12月。
愛好家の皆様をワイナリーにお招きして、感謝の会を開催させていただきました。
地下ワインカーブでの大隅良典東京工業大学栄誉教授の記念講演「科学を文化に―酵母がもたらすもの」から始まり、ダンサー田中泯さんの場踊りをお楽しみいただきました。
泯さんの踊りの迫力は、会場を一つにしていました。
小宴では、山梨県出身の堀内浩平シェフのお料理「ヤマナシガストロノミー」とともに、グレイスワインを提供させていただきました。
100年目にして初の周年記念のイベントは、構想や準備も含め、想定していたよりも遥かに大変なものでしたが、美しい場面にも出会うことができました。例えば、11月のイベントで開栓した、祖父の手がけた「グレイス甲州1957」。
多くのものが機械化されていく中で、手吹きで造られたガラスボトルの揺らぎに、ものづくりの美を感じました。
101年目を歩み出すにあたり、挑戦や革新はなくてはならないものですが、伝統とはこういうことなのかとはっとした瞬間でもありました。
それは、12月のイベントで、基礎科学研究の重要性を説く大隅良典博士の講演を拝聴したときに感じた、誠実な美しさとも似ていました。
大きくすること、発展することに囚われず、ワイン造りにおいて本当に美しいと思ったものを大切にしていきたいと改めて思ったのです。
百周年の感謝を伝えるイベントは、その後、会員様に向けての白金台「アルシミスト」、六本木「ローブ」でのメーカーズディナーと続きました。
一連のイベントを通し、ご参加いただきました皆様、本当にありがとうございました。
ここに心からの感謝を申し上げるとともに、101年目からも一緒に歩みを重ねていけることを祈っています。