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【もしうし#2】もしも妹が科学の力で僕を牛にしちゃったら!?

翔平の悲鳴が研究室中に響き渡った。マシーンは光を放ち、ブザー音と共に動き始めた。彼女の研究室が今までにない振動に包まれる中、美咲は心臓が飛び出そうなほどの緊張を感じた。この瞬間まで、彼女は動物の組み合わせだけを試していた。だが今、自分の兄がその中にいた。

光が次第に弱まり、ブザー音が止むと、マシーンの中から翔平の姿が現れた。しかし、彼は以前とは違う姿をしていた。彼の身体は、かつての人間の姿と、牛の特徴が融合したものに変わっていた。

「お兄ちゃん!大丈夫!?」美咲はすぐさま彼の元へと駆け寄った。

マシーンから出てきた新たな翔平は、人間と牛の特徴を兼ね備えていた。彼の体格は以前よりも頑丈で、体表は一部が厚く強靭な牛の皮膚に覆われていた。特に彼の腕と胸部は、牛の力強さを思わせる厚みと力強さを備えていた。

しかし、全てが牛の体に変わったわけではなかった。彼の顔は人間のままで、鋭い視線は以前のままだ。ただ、頭頂部には牛の角が二つ、強く堂々と生えており、それが彼の新たな身体の印象を一層強くしていた。

また、彼の足は人間のままだが、それが支える体重が増えたためか、筋肉が更に発達していた。そして彼の背中からは大きな牛の尾が伸びていた。それは彼が感情を表現する新たな方法となっていた。驚きや困惑、そして時には楽しさを、その尾で表現する翔平の姿は、美咲にとって新たな発見の一つだった。

この新たな姿は、人間と牛の融合という未知の結果だったが、それは同時に翔平自身の新たな姿でもあった。彼はその身体に驚きつつも、新たな状況に適応しようとしていた。

「お兄ちゃん、怪我はない?」

美咲の声は心配そうに響いた。彼女は翔平の新たな姿を見つめて、何か言葉を探していた。

「大丈夫だよ、美咲。ただ、これが自分の身体だなんてまだ信じられないけどね。」

翔平は苦笑いしながら答えた。彼の声は以前と変わらず、優しさに溢れていた。

「ごめん、翔平。私が…」

美咲は言葉を途切れさせ、目を伏せた。彼女は自分の好奇心が兄をこんな状況に追い込んだと悔やんでいた。

しかし、翔平は微笑みながら彼女の肩を握った。

「美咲、君が悪いわけじゃない。これも何かの運命だよ。それに、こんな体になった僕でも、君の研究を支えることは変わらない。」

翔平の言葉は美咲の心に染み入った。彼女は目を上げ、翔平の新たな姿を再び見つめた。

「ありがとう、翔平。一緒に、この新しい生活を乗り越えようね。」

美咲は微笑みを返し、兄妹で手を繋ぎ合った。未知の状況に置かれながらも、二人は互いの理解と絆を確かめることができた。

「でも美咲、これでもう二足歩行は無理そうだね。」翔平の声は笑いを含んでいたが、彼女には彼が少し寂しそうに見えた。

「大丈夫、お兄ちゃん。何とかなるよ。」美咲は兄の新たな姿を見つめて、そう言った。翔平の下半身は、人間の二足歩行を許さない牛の脚へと変化していた。強靭な四肢が地面を踏みしめ、その上で翔平は自分の新たな生を受け入れようとしていた。

「でも、この体でどうやって普通の生活を...」翔平の声は少し不安げになった。

「お兄ちゃん、私がいるよ。一緒に何とかするから。」美咲は彼に向かって微笑んだ。それは彼女が翔平に対する強い決意を示すものだった。

翔平は彼女の言葉に感謝の笑顔を浮かべ、新たな身体を使ってゆっくりと立ち上がった。「ありがと、美咲。君がそう言ってくれるなら、何とかなるよね。」

二人の未来は未知数だったが、彼らは互いを信じて新たな日常に向き合う決意を固めた。それは未来への一歩を踏み出す、新たな始まりの瞬間だった。

新たな生活が始まる中で、翔平と美咲の間には新たな問題が浮上した。それは、以前のような生活を維持するための資金調達の問題だった。

翔平はこれまで実業家として成功を収めてきており、美咲の研究にも資金を提供していた。しかし、彼が牛と融合した身体を持つことで、これまでのビジネス活動を継続することは難しくなっていた。

「美咲、このままだと私たちの生活は難しくなるね。」翔平は少し憂鬱そうに語った。

美咲は翔平の言葉に頷き、彼に向かって力強く言った。「お兄ちゃん、それなら私が何とかする。私が働いて資金を工面するから。」

しかし、翔平は美咲の言葉に首を振った。「美咲、それは無理だ。君は研究に専念するべきだ。」

二人は一時的に沈黙に包まれ、それぞれが解決策を模索した。そして翔平がふと閃いた。「それなら、私たちの状況を公にしてみるのはどうだろう?」

美咲は翔平の提案に驚いた。「公にする?でも私たちは…」

翔平は美咲の言葉を遮った。「これまで隠してきたけど、私たちの体験は他の人にも価値があるはずだ。何かの形で公にすれば、私たちを支えてくれる人も現れるだろう。」

しかし美咲は言う
「それだけは……やっぱりいや。私は1人で科学を志す、それが私のポリシーなの……」

翔平は自分がお腹が空いていることを感じた。その時思いついて。

翔平が新たな身体に適応するにつれて、彼は新たな能力を発見した。それは、草を食べて生活できることだった。彼の胃は人間のものから牛のものに変わっており、新たに草食の生活が可能になったのだ。

そして彼はその能力を活かすことにした。「美咲、俺、草刈りの仕事をしてみようかな。」彼の言葉は冗談めかしていたが、美咲はその提案に真剣さを感じた。

そして翔平はその考えを実行に移した。彼は近所の公園や草地で草刈りを始め、その活動は地域社会にとって大いに役立った。さらに彼が食べた草は完全に消化され、大量の糞になった。それを彼は堆肥として処理し、それを売ることで新たな収入を得ることができた。

美咲はその側で翔平の活動を見守り、自分も研究を続けるために必要な努力をしていた。二人はそれぞれの立場で新たな生活を続けていった。

翔平と美咲の生活は一見すると異質なものだったが、彼らはそれぞれの力を活かして新たな生活を築き上げていた。それは未来に対する新たな希望の一つだった。

数ヶ月が経過し、美咲と翔平の生活は安定してきた。翔平の草刈りと堆肥製造事業は地域社会で受け入れられ、また彼らの特殊な状況に対する理解も深まり、何らかの形で彼らを支える人々も増えてきた。

一方で、美咲は科学者としての仕事を続けていた。彼女は翔平が合体マシーンによって変身した経緯を元に、新たな研究を進めていた。それは、動物と人間の融合体がどのように生活するのか、そしてそれが社会にどのような影響を及ぼすかについての研究だった。

翔平の変身は美咲にとっては予期せぬ出来事だったが、同時にそれは新たな研究のきっかけともなった。美咲は翔平と共に生活をしながら、その研究を進めていた。

しかし、新たな問題が浮上した。


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