【もしうし#2】もしも妹が科学の力で僕を牛にしちゃったら!?
美咲は翔平の体の変化を詳しく調査した。その結果、彼が感じていた変化は確かに実際の物理的な変化だったことが明らかになった。そしてその変化は、人間の体ではなく牛の体の影響が強まる方向へと進んでいた。
「お兄ちゃん、確かに君の体は変わってきているね。」美咲は検査結果を見ながら翔平に語った。「でも、それは君が思っているように元に戻るのではなく、牛としての特性が強まっているようだ。」
翔平は美咲の言葉に驚いた。「牛としての特性が強まる? それってどういうことだ?」
美咲は彼に説明した。「具体的には、君の消化系や感覚器官、筋力などが牛に近づいている。つまり、お兄ちゃんが草を食べるのに適応しているだけでなく、より牛としての生活に適応しているということだね。」
これは新たな問題だった。美咲と翔平はこれからどのように対処すべきかを考えなければならない状況になった。しかし同時に、これは美咲にとって新たな研究の道となる可能性も秘めていた。
一方で、翔平は彼の新たな状態にどう対応すべきかを考え始めた。彼の生活はこれまで以上に大きく変わりつつあったのだから…
数週間が経ち、翔平の体だけでなく思考もまた牛のようになってきていた。彼の話す言葉は少なくなり、自己表現も単純化してきた。美咲は兄の変貌に深い不安を覚え始めた。
「お兄ちゃん、君…大丈夫?」美咲が心配そうに問いかけると、翔平はゆっくりと頷き、牛のような鳴き声を出した。
「美咲、心配しないで。ただ、最近、草を食べることや、日向ぼっこをすることが心地良いなと思うことが増えただけだよ。」翔平の声は少し遠く、静かだった。
美咲は翔平の変化にどう対処すべきかを考え始めた。彼女の研究には新たな問題が生じていたが、それ以上に、兄である翔平の健康と安全が心配だった。
彼女は翔平が完全に牛になる前に、何か解決策を見つけなければならなかった。しかし、そのためには、彼女自身が牛と人間の融合体についてさらに深く理解する必要があった。
美咲はその夜、深く考え込みながら、自分の研究室に閉じこもった。彼女の目の前には、新たな課題と困難が広がっていた。だが、彼女は研究者として、また翔平の妹として、解決策を見つける決意を固めていた。
美咲は夜を徹して研究を進めた。兄・翔平の思考がどうして牛のようになってしまったのか、その理由を解明しようと試みた。何日も何日も、彼女は紙に数式を書き留め、図を描き、仮説を立てては検証した。
そしてついに、彼女はある重要な発見をした。それは、翔平の思考が牛のようになってしまったのは、合体マシーンの効果が徐々に脳へと広がったためだという事実だった。彼女はその原因を突き止めることができたが、それを逆転させる解決策を見つけるのは容易なことではなかった。
そんなある日、美咲は研究に行き詰まった瞬間、翔平が彼女のもとへやって来た。
「美咲、大丈夫だよ。」翔平は淡々と、しかし穏やかに告げた。「君がこんなに頑張ってくれるなんて思ってもいなかった。でも、僕は今、不自由さを感じていない。草を食べ、昼寝をして、静かに過ごす。これが僕の新しい生活だ。」
美咲は翔平の言葉に驚き、そして深い感謝の気持ちを覚えた。「でも…」
翔平は微笑んで美咲の言葉を遮った。「君が自分の研究に取り組むこと、それが一番大事だよ。僕は、君が僕のために研究を続けるより、君が自分自身のために研究を進めることを望んでいるんだ。」
美咲は翔平の言葉に深く感動し、彼の決意を尊重することにした。そして彼女は、新たな気持ちで自分の研究を再開し、その日からは翔平の生活を支えることに専念した。
美咲と翔平の生活は、それぞれが自分の道を進むという新しい形で進んでいった。翔平は自身が半ば牛としての生活に適応していく中で、美咲は彼をサポートし続けた。
美咲は、彼が草を食べることができ、自由に歩けるように彼のためのエリアを作った。そして、翔平の牛の体と心がもたらす新しい問題に対応すべく、彼女の研究は進み続けた。一方、翔平は自然と共に静かに過ごすことで、牛としての生活に満足感を覚え始めた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんが喜んで草を食べている姿を見ると、何だか嬉しくなるよ。」美咲はそう言って笑った。
「美咲、君が僕のことを見て笑ってくれると、僕も幸せだよ。」翔平はその言葉を言うと、ゆっくりと牛のように頷いた。
このように、彼らは日々を過ごしていく中で、お互いが新しい生活を受け入れ、お互いを尊重し、愛することを学んでいった。
しかし変化がありました。
翔平にはずっと前から片思いだった一人の女性がいました。その名前は、美羽。
美羽との出会いは、彼がまだ科学者として活動していた頃のことでした。彼女はいつも明るく、翔平にとっては日々の生活に彩りを加える存在でした。しかし、美羽と翔平との間には一定の距離がありました。彼が自分自身を完全に彼女に見せることができなかったからです。
そして、彼が牛になったとき、彼はもはや美羽と一緒にいることはできないと感じました。しかし、彼女が前を通りかかり、彼女の目が彼の目に合った瞬間、それが全て変わりました。彼の心の中に新たな希望が芽生え、彼は自分自身を改善し、再び美羽の前に立つことを決意しました。
それ以来、翔平は自分自身を取り戻すために、そして美羽の前で再び立つために、日々努力を続けていました。美羽への愛情が彼の心に燃える炎となり、彼を前へと押し続けていました。
翔平の心の中で、美羽への深い愛情が彼を牛から人間へと引き戻す力となっていました。彼女の微笑みやその優しい眼差しが、彼の中で一つの希望となり、全ての困難を乗り越えようとする彼の決意を強めていました。
翔平の生活は次第に変化していきました。彼は自分自身を制御し、人間としての思考を保つことに一生懸命取り組み始めた。昼間は草を食べ、静かに過ごす一方で、夜は美咲と人間の言葉で会話をし、記憶力や理解力を鍛え続けました。
そして、翔平の努力は実を結び始めました。彼の思考は、だんだんと人間のものに戻っていくようになったのです。彼の言葉は明瞭になり、会話も複雑になっていきました。また、彼の行動も人間のものに近づき、手足を使って物を掴んだり、ベッドで眠ったりするようになりました。
「美咲、僕、思考が戻ってきてる。」ある日、翔平はそう告げました。彼の顔には、再び人間の表情が浮かんでいました。
美咲は兄の変化に大きな喜びを感じました。「翔平、それは素晴らしいニュースだよ。君の努力が報われて、本当にうれしい。」
しかし、彼らの挑戦はまだ終わっていませんでした。翔平は自身の思考を取り戻すことができましたが、その体はまだ牛のものでした。美咲は引き続き彼女の研究を進め、翔平が完全に人間に戻る方法を見つけることに専念しました。
そして、彼らの物語は、挑戦と希望、そして新たなる発見を追求することで、さらに進展していくことでしょう。11