探求 第2章(錯視絵編(2))
片方がもう一方に「男に見えるためのコツ」を教えてみた。
「ちょっと見る確度を変えてね」「こういうふうに髪の辺りに集中すると見えやすい」
すると「あっ」と声をあげ、「本当だ、男がみえる」という。
絵は変化していない。
この時何が起きたのだろうか。
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この場面は、たいへん重要に思われるため、わたしは専門用語にならってこれを「アスペクトの転換」と呼ぶことにする。
「アスペクト」とは、ある対象を「~として」見ている、その見え方をいう。そして絵を「男として」見ていた者に、突然、女が見えるようになるという、見えの劇的な変更を、「転換」と呼ぶ。
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アスペクト転換には「一回性」という特異な性質がある。
女へのアスペクト転換を経験したものは、その絵に男のアスペクト*だけ*が見えていた時の見え方に、もう戻ることはできない。そしてこの絵には男も女も見えうる、という知識を、巻き戻すことができない。
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アスペクトの転換は、必ずしも「絵」だけで引き起こされるわけではない。
「このりんごは赤いと同時に黒い」という矛盾文が真となるような解釈を与えられた際にも起こりうる、といいたい。
つまりわたしは、基礎的な論理において、あるいはもっといえば、言語を支えるあらゆる文についても、アスペクト転換は起こりうると考えたい。
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