GOWお仕事図鑑 品質管理編
品質管理のお仕事とは、日々の衛生管理やぶりのクオリティ管理などのイメージが強いですが、実際にお話を伺ってみると、全ての部署をつなぐ歯車のハブ、のような存在でした。”品質管理”という謎に包まれたチームが、それぞれの部署とどう繋がっているのか、品質管理課係長の藤村さんからお話を伺いました。
――いきなりですが、品質管理課はどんなお仕事をしていますか?
「品質管理課のメンバーは現在8人です。ざっくり言って2つメインの仕事があります。2017年に取得したASC認証を維持管理する仕事と、鹿児島水産(鹿水)の養殖現場の方々と連携してぶりの品質を管理する仕事です。私が主に関わっているのは鹿水のほうですね。養殖に関わる日々のデータを記録・集計し、資料を作っています。そうした作業で生け簀の現状や課題を『見える化』し、現場の方々と一緒に対応を考えます」
――具体的にはどんなデータを取っているんですか?
「海水温や水中の酸素量など基礎的なデータも残しますが、重要なのは餌の量や生残率(歩留まり)ですね。餌の量が多くなったり、出荷までに死ぬ魚体が増えたりすれば、1尾あたりの原価率が高くなってしまいますので。こうしたデータは毎月、本部に報告します」
――現場に行くことが多そうですね
「そうですね。現場に出るのは大事だと思います。若い頃は朝4時や5時頃の水揚げにも立ち会っていました。現場を知らなければ机上の空論になってしまいますから。現場の方でなければ分からないことって、たくさんあるんです。生け簀の中のカメラでぶりが泳いでいる様子を映し出すんですが、現場の方はちょっと見ただけで、『ほら、元気ないよね』とか、『生け簀の酸素量が足りないな』とか、魚たちの変化に気づいてくれます」
ーー養殖中のぶりが病気になった時はどう対処するんですか?
「いったん生け簀の中に病気が広がってしまうと対策は限られてしまいます。ですので、早め早めの対処が大切になってきます。病気の兆候が見つかった段階で獣医師さんに報告して投薬の指示を仰いだり、餌の量を制限したりします。魚たちは餌を食べると代謝が上がるので、そのぶん病原菌が広がってしまう心配があるんです」
――元気なぶりを出荷できるように管理しているんですね。
「あと、私たちの仕事で重要なのは、鹿水の養殖現場の人たちと加工部門や営業部門の人たちとの、つなぎ役になることです。たとえば、営業側には『この時期にこれぐらいのサイズの魚を売りたい』というニーズがありますよね。一方で鹿水側には『今出荷できるサイズはこれくらいだ。尾数はこれくらいだ』というのがあります。そのあたりの意見をすり合わせないと、全体の歯車が狂ってきてしまいます。営業は『サイズが小さいから売れない。大きく育ててほしい』と言いますし、鹿水側は『計画的に売ってくれないと生簀数が減らない、出荷したい時期に出せない、成績を落としてしまうので困る』と不満を持ってしまいます」
――ぶりは大きく育てた方がいいと思っていました。
「営業の方たちの中には『サイズは大きければ大きい方がいい。どんどん餌をやれば魚は大きくなるだろう』とシンプルに考えている方が多いのですが、『そうではないんですよ』ということを生産現場サイドから伝えなければいけないと思っています。原価に直結するため餌の量、効率も考慮しています。コンスタントに出荷しないと生け簀の密度が高くなります。そうするとぶりたちは餌を食べられなくなったり、病気になりやすくなったりします。適切な成育が難しくなるんです。それと、当然ですが加工工場の稼働率も考慮しなくてはいけません。養殖現場と加工部門と営業部門という事情が異なる各セクションと調整し、お互いの意見をすり合わせて、年間を通じてベストな生産・加工・販売計画を作る必要があります」
――へええ。品質管理課が全体の調整役、ハブとして機能しているんですね。一般的に「品質管理」と聞いて思い描くイメージよりも、だいぶ奥深いですね。
「そうですね。サイズの問題もありますが、やっぱり身質もベストな時に出荷したいですよね。魚も人間と同じで、産卵すると体重が落ちて身質もボロボロになります。いったん体重が落ちてしまうと、もう一度大きくするには餌の量を増やす必要がありますが、そうするとまたコストがかさんでしまうことになります。生き物を相手にしている、というところが一番のポイントです。生産・加工・販売が一体となって動く必要があると考えています」
――なるほど。販売した商品に問題が見つかった時も、品質管理の方々の出番でしょうか?
「日々の養殖現場のデータを蓄積していて、養殖履歴を作っています。なので、この日に販売した魚は、どの生け簀から出荷したのか、いつの段階でどんな餌を与えていたのか、問い合わせがあれば瞬時にデータを提供できる体制が整っています。万が一の場合、リコールなどによるダメージを最小限に抑えるだけでなく、その原因を分析することもできます。」
――うわあ。すごい。
「養殖から加工・販売まで一貫して自社で行っている強みだと思います。たとえば、営業の方から『お客さんに商品を届けた時、色がよくなかった』という情報が入ったとします。そうしたら養殖履歴を取り出して、どこに問題があったかを探ります。原因が見つかれば今後の改善のヒントにすることができます。加工部門の方々からもいろんなご指摘をもらいます。『切ってみたら身が柔らかかった』とか、『B品の率が高い』とか。水揚げ時には分からない変化が加工段階で見つかることは結構多いんです。そういう指摘があった時にもすぐ履歴をさかのぼって調べてみます。そうすると、この時期に与えていた餌に問題があったかなとか、水揚げ後の魚の血抜きが甘かったのかなとか、改善のヒントを得られることが多いです」
――養殖現場以外の品質管理のお仕事もうかがいたいです。ASC認証というのは、持続可能な養殖業に与えられる国際認証だと思いますが、この認証を維持するためにはどのような作業が必要なのでしょうか?
「生け簀の中の水温や微生物の状況など、年間を通じてたくさんの調査を行い、資料や報告書を作成しています。どんな餌や薬を与えてきたかを証明する必要もあります。たとえば今月は生け簀の泥をサンプリングし、底質生物を分析しました。認証を更新するための基準は厳しくなる傾向がありますので、対応するのは結構大変です」
――品質管理の部署として、これからの課題はどんな点ですか?
「AIの技術をもっと利用していきたいです。現在でも生け簀の映像はAIで自動解析していますが、給餌の部分はやっぱりベテランの方の勘に頼っている部分が大きいんです。AIにぶりの特性を学習させれば病気の早期発見につながるかなと思いますし、魚たちは今お腹が空いてるねとか満腹だねということが可視化できれば、給餌の効率化にもつながると思います」
――なるほど!まだまだAIには発展を期待したいですね。最後に、藤村さん自身は今後どんな仕事に挑戦したいですか?
「学生時代に取り組んでいた餌の研究を深掘りしたいですね。餌の中身や給餌の方法にはまだ改善の余地があり、年間を通じて試験を行えばベストな方法を確立できると思っています。なかなかそこまで手が回らないですが、ぜひ追究していきたいです」
聞き手:今吉美保
インタビューは2023年12月に行いました。