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取り戻す旅 藤本智士

この本を知るきっかけとなったのが熊本市内のカフェ「共栄堂」で行われた
トークイベント「旅のあとで」。共栄堂店主の荒木久尚さんと熊本の編集者の福永あずささんによって開催され、ゲストスピーカーの藤本智士さんと佐藤充さんをお招きしてのイベント。人生を変える三要素は旅と人と本らしい。藤本さんによって49歳にして初めての海外旅行の話や取り戻す旅の裏エピソードなどが語られ、聴き終わった後には解毒されたようなすっきり感。「白黒つけることだけでなく、グラデーションを大事にしたい、してもよい。」「今考えていることが明日に変わっても良い」そう思えるようになる一冊です。


著者紹介

藤本智士:全国流通雑誌Re:Sの編集者。当時32歳だった藤本さんがカメラマン、アシスタントとともに小さな車「デミオ」に乗って旅をしながら取材。マイボトルという言葉を作るなど「リスタンダード=新しい普通を作りたい」という思いでRe:Sが誕生。 時が経ち、旅そのものが仕事になった今、忘れかけてしまった原点である「Re:S」のような旅を取り戻す旅がこの一冊に綴られる。

内容メモ

第1章:小さな奇跡に気づくこと 

・スープの底のチャーシュー

第2章:つまづく石は気づきの石だね 

・神様の演出

第3章:こたえは自分の外にある 

・大切なのはそれぞれの役割、ディレクションである
・そう思えば僕はずっと、その街の先輩方に町の作法を教えてもらってきた。若者の声を聞けとか、よそ者の声を大事にとか、そんな世の中だけど、それはあくまでも互いに聞く態度を持っている前提だ。僕はずっと郷に入れば郷に従えだと思っている。それはその土地に対するリスペクトの話で、それなしに違いが影響を与え合ういい関係なんて生まれない。僕自身、失敗したなあと後悔するとき、それは大抵リスペクトより自分のエゴが勝っている時だ。町の楽しみ方は、その町の先輩たちが最もよくわかっている。それがふらりやってきた旅人の最低限の礼儀だと思っているかもしれない。 ・水野太貴さん「ゆる言語学ラジオ」


第4章:手放せばやってくる

・権利の主張はとても大切だと思っているけど、つまり利権の確保について話していると感じる場面が多い。著作権という言葉に僕は以前からフィットしない。この気持ちのグラデーションや機微を感じ取ってくれる人は少なくて、特に白か黒かを求めたくて仕方ない人には完全に勘違いされる。経済も大事という、僕にとっては限りなく詭弁に近い言葉のもとで、多くの人たちがお金につながるものを囲い込むことに必死になり、シェアすることの喜びを忘れてしまう。より多くのものを、より逃げ道なく囲い込むことこそが、いわゆる成功と呼ばれる状態を生む世の中で、手放すことにどれほど勇気がいることか。


第5章:変わることを受け入れる

・誰にアテンドしてもらうかで、その町の印象が変わるように、誰かが話してくれるかでその本の印象も変わる。ならば気心知れたメンバーが立つ丘から本の地平を眺めてみたいと思った。


第6章:

・店であれ、人であれ、出会にはちょうどいいタイミングがある。出会うべき人には必ず出会えるから、焦る必要などない。


第7章:決めたことは変えられる

・僕にとって旅の日々は、思いがけない気づきの連続。気を抜けばインプット過多に胃がやられそうになる。寄せては返すナビのごとし、引き潮時間を強く意識して確保しないと、大切なはずの気づきさえ大波にかき消されてしまうのだ。あれもこれもインプットするぞと100パーセントを目指すと辛くなる。少しばかり不完全なくらいがちょうどいい。
・どれだけ豊潤なビジョンも、数字を前にすれば、いつだって言葉少なだ。
・土地の名物は、意外に元祖より亜流の方が美味しいこともある。結論をいえば僕はチョコQ助が好みだ。後追いの強みか、ちよこちゃんは、さすがによく考えられている商品で、チョコが均一にかけられているのだが、これがいけない。土井雅治さんが料理の秘訣として「混ぜすぎない」と言うように、美味しさというのは、ちょうどいい加減を掴むことで生まれるもの。決して均一さが生む元ではない。その点、チョコQ助は、久助という半端者の工程だ。いかに使い勝手良くとも、工場で作られる棒寒店より、天然寒天と呼ばれる棒寒天を愛す秋田の母さんがたの気持ちが、いま僕にははっきりとわかる。


第8章:寄り道、上等

・それにしても今日のような青空に、いづみさんの青い車はよく似合う。これまで幾度となく、いづみさんの青いフォルクスワーゲンに乗せてもらったけれど、何度見てもかわいくて羨ましい。晴天下はもちろんのこと、曇り空でも、雨の日でも、晴れ晴れとあるいづみさんの青い車が本当に好き。今時の車に比べたら燃費が良いわけではないければ、この青い車を好きなひとに悪い人はいないはずと、妙な偏見が生まれるくらい愛おしい。 国産者のディーラーに取材をする場面も多かったいづみさん。もうちょっとでアクアを買いかけたという。シンプルな人の良さからくる見事なまでの「葱背負った鴨」感のなせるわざだと思うがこの車に乗り換えてなくなった。きっと独特な色の外車を選ぶような人は燃費の良さとか価格などと言う、経済合理性で車を判断する人じゃない認定を得られるのだろう。営業の常套句なんて99%が損得の話で、だから、この青い車はある意味いづみさんのモデルスーツである。
・子供の頃、「JUMPUP」というゲーム機があり、ただ力任せに叩けばよいのではなく、絶妙な力加減が重要で、今もなお僕は大きな力を持っているわけではないし、持ちたいと思わないけど、時代によって変化する「ちょうどよさ」を捉える力を持っていたいなと思う。
・普段お仕事をご一緒するいづみさんはどちらかと言うとちゃんと決めておかなきゃ不安なタイプ。そもそもローカルで編集ライターとして長年、丁寧な仕事を続けている人はみんなそうだ。滲み出る誠実さと、小動物と表現したごとく、どこか不安げで控えめな姿がそっくりだなと思う。それはきっと、自分の弱さやダメさを知っているからで、自分の強みの主張と発信に躍起になっている人よりも断然信用できる。ぼくが尊敬するローカルの編集ライターさんたちは皆、何かの拍子にその弱さから他人に迷惑をかけてしまうことを恐れて、目覚ましを二つも三つもかけて寝るような人たちばかりだ。その繊細さが取材相手への配慮につながるからこそ幸福な記事を生み続けるのだろう。迷惑をかけないように生きることを社会は求めるけれど、迷惑をかけあえる関係ほど幸福で安心できることはない。
・人生で大事なことは「匙加減」。「利他性がベースの想像力」「素材の生かす循環力」「昇華させる表現力」がものづくりには必要な3大要素である。


第9章:小さきものの声に耳をすます。

・僕は旅先で気に入った店に出会うと「早速」また翌日に行ったりする。昨日の今日だと、大抵お店の人も覚えてくれているから、嬉しい出会いがリセットされず「続き」になる。最初は「なんか好き」という裏付けのない感覚が、会話を皮切りにそこにある哲学や姿勢にふれて、徐々に明確な好きに変化していく。早速のちからでより深まる理解が、一方的な出会を双方向に変えてくれる瞬間の幸福はほかに変え難い。


第10章:終わりが始まり。

目的を決めすぎず、すべては伏線だと、流れに身を任せるからこそやってくる思いがけない出会い。

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