見出し画像

【勝手な詩】 僕は深海魚にはなれなかった

僕は深海魚にはなれなかった
鱗(うろこ)を脱ぎ捨てて沈んでいく夢も
真夜中の泡沫(うたかた)に溶けて、消えて

暗闇の歌を聴くための耳も、
深海の圧力を包む骨も
持たずに漂う僕は
水面(みなも)の下でただの影

海底は遠く、声の届かぬ場所
そこに生まれることのなかった僕は
光と影の狭間で
渦巻く夢にだけ生きている

深海の青は僕を拒み
水面の上は遠ざかる
僕はどこにも属せず
ただひとつの水泡のように

もし深海魚になれていたなら
僕の目は透明な暗闇を切り裂き
僕の心は沈黙を泳いでいただろう

けれど今は、
誰の目にも見えない僕の輪郭が
浅い水の中でただ滲んでいく

いいなと思ったら応援しよう!

テツ【勝手な事務所】
サポートしていただけたら、とてもありがたいです。

この記事が参加している募集