本格的に日本国内で貨幣を作り、流通させたのは江戸時代からです

古代日本では、中国の貨幣を輸入して使用することが一般的でした。これは、中国の貨幣が質や信頼性の点で優れていたことや、日本国内の貨幣経済の発展が遅れていたことが理由とされています。

日本で本格的に国内で貨幣を作り、流通させる体制が整ったのは、江戸時代(1603年~1868年)です。江戸幕府の統一貨幣制度によって全国的な流通体制が確立しました。

国立博物館所蔵

貨幣の歴史

1. 奈良時代から平安時代まで
奈良時代(708年〜)
和同開珎をはじめとする「乾元大宝」までの十二銭が鋳造されましたが、金属不足や信用の低さにより流通は限られていました。この時期、貨幣経済は広がらず、物々交換や布、米などの物品が主要な取引手段でした。

平安時代
貨幣鋳造が中断され、中国から輸入された宋銭が主に使われ、国内で貨幣を作る動きはほとんどありませんでした。

2. 中世(鎌倉時代~室町時代)
• 日本では依然として中国の貨幣(宋銭や明銭)が広く流通していました。
• 室町時代には、中国貨幣の不足を補うために「私鋳銭(しちゅうせん)」という民間で勝手に鋳造された粗悪な貨幣が流通するようになりましたが、統一的な貨幣制度はありませんでした。

3. 江戸時代(1603年~1868年)
• 江戸幕府が成立すると、徳川家康は全国統一の貨幣制度を導入しました。これが日本で本格的な貨幣経済の始まりです。
• 金銀銭三貨制度
江戸時代の貨幣は主に3種類ありました:
• 金貨(小判・一分金など):主に大口の取引や武士への俸禄に使用。
• 銀貨(丁銀・豆板銀など):秤量貨幣(重さで取引)で主に商取引に使用。
• 銭貨(銅銭・鉄銭など):小口の取引や庶民の生活で使用。
• 貨幣の鋳造と流通
金貨は主に金座で、銀貨は銀座で、銭貨は銭座でそれぞれ鋳造されました。この体制により、貨幣の安定供給と信用が確立され、日本国内の貨幣経済が飛躍的に発展しました。

4. 近代(明治時代以降)
• 明治政府が発足すると、1871年に新貨条例が制定され、円を基準とした貨幣制度が整備されました。これにより、日本は近代的な貨幣経済へと移行しました。


日本が貨幣を作る技術を手に入れた背景
中国や朝鮮半島からの技術移入が大きな役割を果たしました。古代から中世にかけて、日本は周辺諸国と密接な交流を持ち、貨幣鋳造の技術や知識を学び、応用していきました。
戸時代には独自の工夫を加え、明治時代には西洋の近代技術を取り入れることで、より精密で効率的な貨幣製造体制を確立しました。このように、外来技術を柔軟に取り入れつつ、独自の改良を加えることで発展していったのが特徴です。

1. 古代(飛鳥~奈良時代):中国からの技術移入
• 遣隋使・遣唐使による交流
日本は飛鳥時代から奈良時代にかけて、隋や唐に使節(遣隋使・遣唐使)を派遣し、政治制度や文化、技術を積極的に学びました。その一環として、貨幣の鋳造技術や経済制度も取り入れました。

• 唐の貨幣制度の模倣
708年に発行された和同開珎は、唐の「開元通宝」を模倣して作られました。この際、中国から鋳造技術を学び、金型作成や金属合金の技術が伝えられたと考えられています。

2. 朝鮮半島からの技術流入
• 日本は古代から朝鮮半島との交流が盛んで、特に百済や新羅からは高度な金属加工技術が伝えられました。
• 鋳造技術や冶金(やきん:金属の精錬)技術は、貨幣作りだけでなく、仏像や工芸品の制作にも応用されていました。

3. 中世(鎌倉~室町時代):輸入貨幣と鋳造技術
• 鎌倉時代以降、中国(宋や明)から大量に輸入された貨幣(宋銭・明銭)を通じて、さらに鋳造技術が進化しました。
• 室町時代には「私鋳銭」が盛んになりましたが、これには輸入貨幣を参考にした技術が使われました。

4. 江戸時代:独自技術の確立
• 職人の育成
江戸幕府は貨幣の鋳造を中央集権的に管理するため、金座・銀座・銭座を設置し、専門の鋳造職人を育成しました。
• 技術の工夫と改良
江戸時代の貨幣鋳造では、中国由来の技術を基盤としながら、日本独自の工夫が加えられました。たとえば、小判などの金貨には「打刻」技術が用いられ、高い精度で均一な貨幣を作ることが可能になりました。

5. 明治時代以降:近代技術の導入
• 明治時代に入ると、西洋の近代的な貨幣製造技術を取り入れるため、1871年にイギリス製の機械を導入し、近代的な貨幣鋳造所である造幣局が設立されました。
• この機械化により、従来の手作業では不可能だった高精度かつ大量生産が可能となりました。

貨幣と電子マネーの関係性
貨幣の進化と経済のデジタル化という文脈で理解できます。電子マネーは、従来の物理的な貨幣(現金)に代わる、新しい形態の貨幣であり、その登場と発展は技術革新と社会のニーズによって促されてきました。以下に、その関係性を解説します。

1. 貨幣の役割と電子マネーの位置づけ

貨幣は、人類の歴史の中で以下の3つの役割を果たしてきました:
1. 価値の尺度(価格を示す基準)
2. 交換の媒介(取引の手段)
3. 価値の貯蔵(財産として蓄える手段)

電子マネーは、これらの役割をデジタル技術を通じて果たすもので、特に「交換の媒介」としての機能を重視しています。

2. 電子マネーと貨幣の相違点

• 形態の違い
• 貨幣:物理的な形(硬貨や紙幣)を持つ。
• 電子マネー:データとして存在し、物理的形態を持たない。
• 価値の記録方法
• 貨幣:価値が物理的な貨幣自体に付随している。
• 電子マネー:サーバーやカードに記録されたデジタルデータとして管理される。
• 決済の仕組み
• 貨幣:手渡しや現金支払いで即時完結。
• 電子マネー:ネットワークを通じてサーバー間でデータの移動を行い決済。

3. 電子マネーの登場背景

• 利便性の追求
電子マネーは、現金を持ち歩く不便さやリスク(盗難や紛失)を解消するために生まれました。
例:Suica(交通系ICカード)やPayPay(QRコード決済)
• デジタル技術の進化
インターネットとスマートフォンの普及により、リアルタイムで取引できる仕組みが整ったことで、電子マネーが広がりました。
• キャッシュレス社会への移行
現金管理のコスト削減や経済の透明性向上のため、各国でキャッシュレス化が進められています。

4. 貨幣と電子マネーの補完関係

貨幣と電子マネーは、互いに競合する一方で、補完的な関係も持っています。
• 電子マネーの利用範囲
小額決済やオンライン取引で便利ですが、災害時やネットワークが使えない状況では物理的な貨幣が必要です。
• 貨幣の信用基盤
電子マネーの価値は、法定通貨(日本円など)の信用によって成り立っています。電子マネー自体は貨幣そのものではなく、法定通貨を代替する仕組みの一部です。

5. 電子マネーの課題と展望

• 課題
• セキュリティの確保(不正利用やハッキングのリスク)
• デジタルデバイド(高齢者や非デジタル層への普及)
• 法規制の整備(資金決済法など)
• 未来の展望
• 中央銀行デジタル通貨(CBDC)
電子マネーの進化系として、各国の中央銀行が発行するデジタル通貨が注目されています。これにより、国家単位での電子貨幣の普及が加速する可能性があります。

まとめ
貨幣と電子マネーは、同じ「価値の交換手段」という役割を持ちながら、形態や仕組みで異なります。電子マネーは貨幣のデジタル化という進化形態であり、現金と共存しつつ、社会のニーズに応じてその役割を広げています。今後も技術と社会の変化に伴い、貨幣の概念そのものがさらに進化していくでしょう。

現在、電子マネーのみを使用し、現金を完全に廃止した国は存在しません。しかし、世界各国でキャッシュレス化が進んでおり、特に北欧諸国や中国などでは電子決済の普及率が非常に高くなっています。

例えば、スウェーデンでは、店舗や公共交通機関で現金がほとんど使われず、電子決済が主流となっています。また、中国では、モバイル決済アプリの普及により、都市部を中心に現金を使わない生活が一般的になっています。

一方で、日本のキャッシュレス決済比率は約24.2%で、他国と比較すると低い水準にあります。 しかし、近年は政府や企業の取り組みにより、キャッシュレス化が徐々に進んでいます。

このように、完全に電子マネーのみを使用する国はまだ存在しませんが、各国でキャッシュレス化の動きが加速しているのが現状です。

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