橋本『中国語とはどのような言語か』東方書店
橋本陽介『中国語とはどのような言語か』(東方書店、2022年)を読んだ。全体の感想と気になる点を記す。
感想
細かい構成は出版社紹介ページに紹介されている。章タイトルだけ抜き出すと次の通り。
全体的な流れとして、総論から各論、初級文法の基礎から構文論を通って文体論という流れになっているので、読み進めていくうちに内容の難度が上がっていく。
取り扱っている内容も網羅的という訳ではないだろうが、各項目ごとに参照すべき参考文献が挙げられているので、既に中国語を教えていて学習者の質問に備えておきたい人や、これから学問としての中国語学に進みたい人には特に有用だと思う。中国語を始めたばかりの人には全体を読み通すのはキツそうだが、ひとまず買っておいて、学習の進度に合わせて少しずつ読み進めるという使い方もできそうである。
私自身は「中国語チョットヤッタ」レベルなので、前半は楽しく読めたが、例文に小説からの引用が増え、それに伴ってピンインの併記もなくなるあたりから読み進めるのが大変だった。それでも、日本語との対比もあり、また頭の中で馴染みのある西欧の言語と比べながら、対照言語学的な視点で読むのでも十分楽しめた。ところどころに挟まる、歴史的な説明、漢文との比較も興味深かった。
まえがきにある「中国語がどのような言語か知りたい人、すでに学習中の人、言語学的な研究を志す人、研究者の人、とにかく中国語に触れたことがある人[…]。どの段階にある人でも、新たな発見があることを保証する。」という言葉に偽りはないだろう。
他の言語でも、類型論や対照言語学的な視点を含めた、初学者から研究者まで幅広く対象とするような本が出てほしい。本書はその一つの模範になりうると思う。
気になった点
2022年9月20日 初版第1刷のKinoppy電子版で確認できたもの。
とあるのだが、直前の例文は「让我看。」と「老师让我们买他写的书。」の二つで、どちらも「让」を用いたものなので、ここで「この“叫”は」と続くのは唐突の感がある。草稿の段階では二つ目の例文、ないしは消されてしまった三つ目の例文に「叫」が使われていたのであろうか。
ここでいう「声調順」とは、第一声・第二声・第三声・第四声の順ということであろうか。他に読みようがないと言われてしまえばそうなのだが、もう一言説明が欲しかった。あるいはこの声調のナンバリングは並列語での順序を元につけられたものなのだろうか。いずれにせよ、“东西 dōngxī”“表里 biǎolǐ”のように前後ともに同じ声調の場合は「声調順」で説明できないので、ここに掲げる例としてはふさわしくないように思う(または追加の説明が欲しい)。
「他動詞+結果を表す自動詞・形容詞」が合体して、一つの他動詞のように振る舞うという話の流れで、「壊れる」を意味する“坏”に、他動詞“弄(〜する)”を加えることで「壊す」の意味を表せるとして、上二つの例が説明される。それはいいのだが、三つ目の例文については何の説明もない。主語を明示しないことで、結果的に日本語では一つ目と同じような訳になってしまうということかとも思うが、説明は欲しい。
コンマとスペースの順が逆になっている。
「話し手」であるべきところ。
「誰が開けたかについては」
組版の問題だけれど、和文と英文が混ざっている場合、英文側で文字間調整して欲しい。
最初の二節はどちらも「父の行動」のように読める。
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