「ワインを仕事にする」ということ
ワイン業界にいるとよく耳にする話です。
ワインはとっても魅力的で楽しい世界である一方、それを生活の糧として生きていくの難しいという現実はあります。(もちろん、超一流のソムリエやワインを生業にして成功している一部の人たちはおります)
私は、ニューヨークワインのインポーターをしており、ワインスクールでも講師もしております。現在、コーチになるために、コーチングを勉強しております。
私は、10年前に全くワインとは関係ない世界からワイン業界に飛び込みました。そのため、この業界の素晴らしい点も、特異な点も客観的に見ることが出来ると思っております。
このnoteでは、コーチング的視点から、「ワインを仕事にする」ということについて、私の考えを述べてみたいと思います。
1. ワイン業界の実情
ワインの世界は外から見ると、とても華やかな世界に見えます。高級ワインは富のステータス・シンボルでもあり、高級ワインを日常的に楽しんでいるのは、富裕層や経済的に成功した人たちが多いです。
その一方で、ワインを提供する側(生産者、飲食店、流通、販売など)の人たちは収入は高くありません。むしろ、必要とされる知識、経験、コスト、勤務時間などを考慮すると、他の業界と比べると給与レベルは低いと思います。
それでもワイン業界に携わる人たちは、ワインが好きで今の仕事をしている人がほとんどなので、楽しそうに働いている人たちが多い印象もあります。
2. 仕事の定義
コーチングにおいてゴール設定をする際に、以下の8つの領域を考えることが大切です。そして、仕事を考える時には、次の3項目「仕事」、「趣味」、「ファイナンス」の違いを理解する必要があります。
仕事: お金を払ってでもやりたいことであり、社会の役に立つこと
趣味: お金を払ってでもやりたいこと (社会の役に立つ必要なし)
ファイナンス: ゴールを達成するために必要な収入と資産
仕事の大前提は、「収入を得ることではなく、お金を払ってでもやりたいこと」です。もし、明日から給料を払わないと言われて、会社に行くのをやめるのなら、それは仕事ではなく、ファイナンスと考えます。
私自身もそうでしたが、多くの人は「仕事」と「ファイナンス」を一緒くたにしています。お金を稼ぐことこそが仕事であり、そのために努力と我慢をするのは当たり前だと思っていました。
そして多くの人がお金を稼ぐためのファイナンスの仕事に疲弊してしまっているのが現実。ファイナンス的に成功している人でも、その仕事のために自分や家族を犠牲にしたり、ストレス発散のためにお金を消費していることも多いはず。
コーチングにおいては、この「仕事」と「ファイナンス」の切り離しを徹底して行います。そうすると、実は本当の意味での「仕事」を持っていないという人が多いのが現状です。だからコーチと一緒に本当にやりたい事を考えて「仕事のゴール」を作っているのがコーチングのスタート地点。
3. 仕事としてのワイン
話をワインに戻します。
もし私が「ワインを仕事にしたいんですけど」と相談されたら、答えは「本当にワインが好きなら仕事にすればいいし、そこまででないなら辞めた方がいい」とアドバイスします。
私がワイン業界の素晴らしいと思う点は、そこに携わる人の多くは本当にワインや食が好きでこの仕事をしている事。ソムリエの多くは本当にワインが好きで、ワインを通してお客様が喜んでくれることに幸せを感じています。近年増えている日本でのワイン生産においては、安定した仕事を辞めてまでも農業であるワイン作りに飛び込む人が増えています。これなどはまさにお金を払ってでもやりたいことの典型例です。
要するに、「お金を払ってでもやりたいと思うなら、ワインを仕事にすればいい。もしお金を稼ぐことが目的なら、ワインを仕事をすることは止めた方がいい」ということです。
私の場合は、長年住んだニューヨークと日本を繋ぎたいとの思いからニューヨークワインを知り、このワイン業界に入りました。コーチングを学んで気付いたのは、お金を払ってでもやりたいという対象が「ワイン」ではなく、「ニューヨーク」だったということ。だから今でもニューヨークワインしか輸入しておりません。もちろん、今はワインの世界にどっぷりと浸かってその魅力と可能性を感じておりいます。
4. 趣味としてのワイン
趣味の定義は、お金を払ってでもやりたいことであり、人の役に立つ必要がないこと。 まさにワインにピッタリの定義です。
ワイン愛好家は喜んで高価なワインを買うし、海外のワイン産地まで行ってワイナリー訪問までします。ワインスクールに通って本格的に勉強する人達も多く、知れば知るほど、深みにハマり、決して終わりがないのがワインの面白さ。
美味しいワインを飲みたい、知的好奇心を満たしたいという欲求のままに楽しむことが出来るのが趣味としてのワインです。
5. ワインを仕事にするには
ワインを仕事にするためには、「そのワインに関わる職業がお金を払ってでもやりたいことであり、社会の役に立つこと」を見つけること、考え直すことが大切だと思います。
その職業の部分は、ソムリエ、販売、生産、流通、教育、PR、プロデュース、イベント企画など人それぞれ。
そして大切なのは、その職業機能をもって、どのようにして社会や人の役に立てるか? もし自分が美味しいワインを飲むのが好きなだけなら、それは仕事ではなく趣味です。
私の場合はここで悩みました。ニューヨークワインのインポーターとして、どんな価値を人や社会に提供出来ているのか? NYの珍しいワインを輸入しているだけで、社会の役に立っていると言えるのか?コーチングを学ぶ中で、メンターのコーチにも相談し、コーチ仲間たちとのディスカッションを通して考え抜いた結果、自分のワインを仕事とする上でのゴール設定が出来ました。
私のゴールは「人生を豊かにする、ワインライフの創出」。
ワインを通して、人々の人生を豊かにすると決めました。ニューヨークには拘るけど、ワイン・インポーターという仕事よりも抽象度を上げて、ワインがあることで人生が豊かになることを伝えていくと決め、このゴールに至りました。その第一歩として、来月東京にニューヨークワイン専門のワインショップをオープンします。
6. まとめ
ワインは「仕事」にする価値や魅力は十分にあると思います。世界中で飲まれているお酒で、その歴史的にも古代からずっと続いている文化です。世界の共通言語とも言えるワインの魅力は、日本ではまだまだ掘り起こす可能性がたくさんあると思います。
自分の本当にやりたい事と才能を踏まえた上で、社会に価値提供出来ることを見つければ素晴らしい仕事になります。今やっていること、置かれている立場から一つ、二つ上の抽象度で考えて、「自分ならどんな価値を社会に提供出来るか?」、「自分がやらなければ他に誰がやる?」ということを見つけ出すことで今の仕事に対する取り組み方も大きく変わります。
もし、お金を儲けることが目標ならば、ワインを仕事にすることはお勧めしません。他に稼げる仕事を見つけて、趣味としてワインを楽しむことが一番でしょう。
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