やがて海へと届く
「やがて海へと届く」(2016年 彩瀬まる・著)文庫版にて読了。
東日本大震災で被災した壮絶な体験と原発事故後の福島の被災者の生活を「暗い夜、星を数えて」という秀逸なルポルタージュ作品として発表した著者が、この作品では小説家として震災体験に向きあう。
二つの独白が交互に綴られ物語は進む。一つは、震災で親友を失った主人公女性の独白。もう一つは、その亡くなった親友の魂のようなものの独白。
前者における、親友の突然の死を受け入れられず苦しみ悩む主人公の姿は、件のルポルタージュでの実際の彩瀬の姿となにか重なる。誠実に生き自分の気持ちを不器用に言葉にする人の姿。
特筆すべきが後者の描き方。この彩瀬まるという小説家の凄みを知ることができた。
悲しみや怒りといったとてつもなく激しい感情、圧倒的な孤独への焦燥と絶望、そしてその先にある消えることのない温かさに包まれた終わりの瞬間。それらを彩瀬は独特な筆致と文体で幻想的に暗く美しく優しく描く。死ぬことってこういうことなのかなと、読みながら想像力が膨らんだ。こればかりは実際に読まないと雰囲気が伝わらないと思うが、自分にとって衝撃と言っても大げさではない経験だった。
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