【コーチング】心理的安全性ってそういうことだったのか
皆さんは会議中、言おうと思ったことを飲み込んだことはありませんか?
今回は「恐れのない組織」(英知出版)を題材に、心理的安全性について考えてみます。
「心理的安全性」という言葉は、近年、すでに定着している言葉といって差し支えないかと思います。その提唱者は、本書の著者である。エイミー・C・エドモンソン先生です。
エドモンソン先生が1999年に、米国経営学会で最も権威ある雑誌 Administrative Science Quaterly で心理的安全性を始めて提唱しました。この論文の引用数は8810回にも上るそうです。論文の引用数はその研究の価値の大きさを示すモノサシとされていますが、それを引き合いに出す間でもなく、心理的安全性の生みの親といえば、その影響の大きさは理解できます。
現在では、心理的安全性に関する著書が多数出版されていますが、最初に手を付けるならば、本書が最も相応しいのではないでしょうか。
著者:エイミー・C・エドモンソン
ハーバード・ビジネススクール教授。リーダーシップ、チーム、組織学習の研究と教育に従事し、2011年以来、経営思想家ランキング「Thinker50」に選出されて続けています。
心理的安全性とは
心理的安全性の概念は、医療現場から生まれました。エドモンソン先生が博士課程1年生のころ、チームワークが医療の誤り率に及ぼす影響を調べることになりました。当然、最も成果の高いチームが最もミスが少ないだろうという仮説をたてて進めたのですが、意外な結果となります。
ミスが多いチームの成果が高かったのです。
この結果には明らかな相関関係がありました。驚きとともに、「もしかしたら、ミスを報告する風土のあるチームの成果が高いのかもしれない」という仮説をひらめき、さらに職場環境についてあらゆる角度から検証を進めました。その結果、調査の対象となったチームに「ミスについて話せる」かどうかについて、大きなばらつきがあることが分かりました。さらに言えば、この違いは誤り率と明らかな相関があったのです。
この風土の違いを「心理的安全性」と名付けました。
この風土の違い、心理的安全性について、冒頭ある看護師のストーリーを用いてわかりやすく説明しています。
産婦人科病棟に勤務するある若い看護師が、ある新生児に対して、普段なら投与されるはずの投薬の指示が出ていないことに気づき、違和感を覚えます。
しかし、担当の医師は、この分野の権威ある専門家です。看護師は、同時に先日同僚がこの医師から叱責を受けていることを思い出し、投薬の指示がないことについて、確認する事をやめました。
きっと何か考えがあって投薬の指示をしなかったのだろう、余計な事を言う必要はない、そう考えたのです。
看護師はリスクの確認より、叱責されない事を優先してしまったのです。これは、看護師個人の問題ではなく、それを心理的負担なく言う事ができない、このチームの風土に問題があると考えられます。
企業でもこのような事はありませんでしょうか。あなたは、会議中、言おうと思ったこどを飲み込んだ経験はありませんか。
組織内で指摘されるべき事が指摘されなかったために、大きな失敗に繋がったことは、様々な事例が知られています。太平洋戦争での敗戦の原因を分析した「失敗の本質」などは代表的な例かもしれません。山崎豊子の著名な小説「白い巨塔」は、心理的安全性のない状況がまさに見どころになっており、非常に分かりやすいですよね。
私は言おうと思った事を、会議で飲み込んだ経験が、多々あります(^_^;)
心理的安全性についての誤解
本書の中で、心理的安全性の概念が広まるにつれて、誤解が生じるリスクが高まっている、と懸念しています。私も誤解していたひとりです。なんとなく、「何を言っても賛同してもらえるミーティング」「ネガティブなことも言っていい会議」のようなイメージを持っていました。
心理的安全性は感じよく振る舞うこととは関係がない
心理的に安全な環境ということは、いつも相手の意見に賛成することではありません。いつも自分が言うことに対して、無条件の称賛や賛成が得らえるわけではなく、むしろその正反対です。
心理的安全性は、率直であるということであり、建設的に反対したり、気兼ねなく考えを交換できる環境です。
これなくして、イノベーションも学習もあり得ません。
心理的安全性は性格の問題ではない
外向性と同義と説明する人もいますが、違います。職場風土の問題です。
心理的安全性は、信頼の別名ではない
心理的安全性と信頼は多くの共通点がありますが、大きな違いは、心理的安全性はグループ内で経験されるものであり、信頼は二人の個人、あるいは二つのグループ間での相互作用です。
心理的安全性は、目標達成基準を下げることではない
心理的安全性とは「ゆるい組織」のことではありません。表のDのボックスが心理的安全性が保たれている組織です。高い基準をもって、率直な意見交換ができている組織です。
では、この表を見たとき、エドモンソン先生が最も危惧するのはどのゾーンでしょうか。
「A;無気力」ではなく、「B;快適」でもなく
「C;不安」です。こういう組織のマネージャーは高い基準の設定と、良いマネージメントを混同しており、時にとんでもない事態を招いてしまう危険をはらんでいます。(フォルクスワーゲン、ウェルス・ファーゴの不正行為、福島第一原発 石橋先生の警告)
”恐れのない組織”とは
心理的安全性のある、不安のない組織をつくるのは難しいかもしれませんが、実現できている組織の事例を挙げて、どのように意図的にそのような風土を作り上げているか、解説しています。
事例に挙げられた企業は、独自の高い業績を上げています。
率直さを実現する ピクサーのブレイントラスト
数名が数か月ごとに集まって、制作中の映画を評価し、忌憚のない意見を監督に伝える。心理的安全性を担保するいくつかのルールがあります。例えばフィードバックは建設的に、個人でなくプロジェクトに意見を言わなくてはなりません。
無知の人
「知らない」「わからない」ということにやぶさかでないリーダーは驚くほど従業員のこころを惹きつけます。(ファッションデザイナー、アイリーン・フィッシャー)
まとめ
心理的安全性の考えについて、誤解していました。正直「ゆるい組織」を想像していました。ゆるい発言も許されるべきなんでしょうけれど、基準を下げることに繋がらないよう、建設的な対話が交わされている風土になっている必要がありますね。
心理的安全性の保たれていない事例として、「白い巨塔」が思い浮かびました。この本を読んだ後では、山崎豊子さんのこの小説のテーマが心理的安全性としか思えなくなっております。
コーチングにおいては、組織開発の場面で心理的安全性の共通理解が前提になってくると考えられます。コーチとして必要な知識だと感じました。クライアントと1対1の関係は信頼関係として理解できますね。
心理的安全性がもたらすものは、チームの高い成果、学習、イノベーションです。