スコップひとつで動き出す/土中をめぐる水講座 第2章_水を走らせない
それでは、水を走らせないためには、どうしたらいいでしょうか?
要は、水のスピードをゆっくりにしたいのです。
川や沢の流れをイメージすると、速く動こうとしている水をゆっくりにする方法が浮かびます。
ゆっくりにするには、
① 角度を変える
②硬いものにぶつける
③ 分散させる
の三つです。
他の方法として、蛇行させる、表面をでこぼこにする、も考えられます。
これは分解すると、
蛇行=①角度を変える+②硬いものにぶつける
の組み合わせです。
表面をでこぼこにする=細かな②硬いものにぶつける+③分散させる
ともいえます。
三つの組み合わせによって、水の勢いをゆっくりにしていく・・と考えると、シンプルです。
① 硬いものにぶつける
速い流れをゆっくりにするには、硬いものに流れをぶつけるといいです。
水が硬いものに当たると、ぶつかった水が跳ね返ってチカラを打ち消しあい、流れが弱まります。硬いものがいくつかあると、水の方向が変わってその水同士がぶつかり合って力が弱まります。
川の上では、岩の上流側は流れがゆっくりです。岩にあたった水のはね返りと、流れが相殺されるからです。
岩の下流側も、流れがゆっくりになります。岩に流れが遮られるので、逆流していることもあります。
硬いものとは、石だけでなく、木や土(柵、石垣)も、水の勢いを受けとめて弱めるはたらきをします。
表面のでこぼこも、水の勢いを弱めてくれます。つるつるしていると、水は走ります。たとえばコンクリートで平らに固められて、底面がつるりとした川よりも、岩が点在してごつごつした川底のほうが、同じ水深、同じ傾斜でもゆっくりになります。
要は、小さなぶつかりがたくさんある状態。ザラザラ、でこぼこでも、水の勢いは変わります。
② 角度を変える
水平×垂直の段になっていると、水が走りにくくなります。
斜めの傾斜は、水が走ります。斜面の角度が水平に近くなるほど、水はゆっくりの動きになります。
垂直の立ち上がりは、角をのりこえた水が地面にあたるので、勢いが弱まり、あたった水が土の中にしみ込みやすくもなります。
つまり、水平と垂直が組み合わさった段は、垂直に落ちた水が水平の面にぶつかってスピードが弱まる。なおかつ水平に近い傾斜で水は流れにくくゆっくりになる。
棚田・ワサビ田は、水が走らない装置でもある
そういう視点でみると、水平×垂直の段状になっている「棚田(たなだ)」や「山葵田(さわびだ)」は、水が走らない防災の装置としてもいえます。
水が走りにくくなるだけでなく、涵養(しみ込む)効果も高いです。
沢の途中や出口に作られていますので、大雨で沢の水が増えても水が走りにくくなり、下流側の里を洪水から守ってくれます。
棚田やワサビ田が砂防ダムとは違うのが、垂直の面が「空石積み」であること。空石積みとは、石と石の間にすき間を残して積み上げる工法で、水と空気が通り、段差の中の土は呼吸ができます。
砂防ダムのようなコンクリートの堰は、同じ段差の形状をしていても完全に水と空気の流れをせき止めてしまうので、土中の微生物が生きられなくなります。コンクリートから出られない土砂や水が砂防サムの周辺の土壌を不安定にして、大きな災害を引き起こす可能性が高いといわれています。
道を作る
山の斜面に、適切な幅で、等高線に近いゆるやかな角度の道を作ると、垂直×水平の段差になります。
山の斜面から落ちてきた水が地面にあたり、スピードがゆるくなります。水平の面がしみ込みやすくもしてくれます。
案外、山の斜面は乾いています。地表を水が走っていると、しみこむ暇もなく水が通りすぎてしまうからです。道を作ることで、段差ができ、保水力のある山になっていきます。
③ 分散させる
一本の流れをいくつかに分けると、水の勢いをおさめられます。
硬いものを複数個配置する
分散させるには、硬いものや段を、複数個、ランダムに配置します。
集まった流れを分散させると、水の勢いを弱められます。分散は、硬いものや木、段をランダムに配置して、水流を分けることができます。
しみ込ませる
地面をでこぼこでフカフカの状態にすると、しみこませることで水を分散できます。
木や草など植物が生えると、細根や土中の菌糸によってすき間ができ、しみこみます。根っこが土を抱え込んで、崩れにくくもなります。
溝
斜面変換線に溝を掘ると、斜面を下ってきた水がスピードを弱められ、かつ、線状に分散します。
かつては台風の前に、溝掃除をしました。溝の形がはっきり出ることで、排水がスムーズになるばかりでなく、分散もされるからです。
蛇行させる
水の動きを蛇行させると、速さを抑えられる。傾斜がゆるくなるのと、折れ曲がるところでぶつかるため。
山の斜面に角度の緩やかな道を作ると、段差と蛇行、分散が同時にできるので、水が走りにくくなる。
(参考)
戦国時代の武将、武田信玄が富士川をおさめるために考えた「信玄堤」も、水の流れを、硬いものをぶつける、分散させる、方向を変える、を組み合わせています。
次章では、水をためない方法について、書きます。
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