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登山道整備におススメの読書案内

昨年春から登山整備にかかわっています。
わたしは新しいことに取り組むときには、まず本から情報を得ます。一冊の本は一貫してまとめられているので、ネットからの情報に比べると信頼できるからです。

昨年の春から現在にかけて、登山道整備のヒントにしてきた本を紹介したいと思います。


近自然工法に関する本

まずは、福留脩文さんが近自然工法にかかわる本を紹介します。福留さんは、大雪山山守隊の岡崎哲三さんの話によく出てくる方です。

『近自然の歩み』福留脩文

福留氏は、石を積んでいた土木の手作業から変わって、重機とコンクリートが利用されはじめた世代です。コンクリートで固めた直線的な河川工事が盛んにおこなわれ、その影響で景観や環境が問題になっていました。そのタイミングでスイスで環境を保全しながら行う近自然工法と出会います。

近自然工法との出会いから、実際に日本で河川や砂防工事を行った試行錯誤が語られています。中でも、日本古来からの伝統工法を取り入れながらの経緯は、重機とコンクリートを使う以前の工事を再現するなどして、近代の土木工事を知ることができます。

この本の後半に、屋久島での登山道整備について、場所や実際に行ったことなどが詳しく書かれています。(実際に訪れてみたいと思っています!)

その中でも、水について、伝統工法からの知恵を引用した部分が参考になります。

近自然登山道の整備はまず水の流れに逆らわず、水のもつエネルギーを徐々に消耗させ流下させることだと私は思った。例えば登山道の線形は、緩くても蛇行する流水の方向に必ず沿わせ、丸太や石の配置はその線形と直角方向に交差させる。また側岸と施設との間際は、流水が加速されないようプール状の階段や滝壷を頻繁に作る。 増水した激流が激しく側岸に当る所には、その流れを刎ねる石組み装置を構えるなどである。こ れらは日本の伝統的な河川工法の教えである。

『近自然工法の歩み』

流れによりそいつつ、水の勢いを弱める方法があらわれていると思います。硬くて強固なものではなく、壊れるもの。施工が終わったところが完成ではなく、様子を見て付け加える。
古くから日本人が自然とつきあってきた哲学があります。

『まちと水辺に豊かな自然を 多自然型建設工法の理念と実際』 リバーフロント整備センター

スイス・チューリッヒ州建設省が作った啓蒙書『Mehr Natur in Siedlung und Landschaft(直訳:居住地と景観に自然が増す)』を翻訳したものです。スイスの近自然工法について、詳しく知ることができます。スイスでの写真や図版を使った案内が中心。
第1章の翻訳に、福留氏が参加しています。

このシリーズが山海堂から出版されているのが、感慨深いです。山海堂は、「カヌーライフ」というパドリング雑誌を発行していた出版社なのでした。

『まちと水辺に豊かな自然を 2』リバーフロント整備センター

2年後に出版された2巻目は、多自然型川づくり(近自然という名ではない)についての考え方と整備の実例について、まとめられた本です。
本の前半は川をとりまく環境について、後半は具体的な工法について、書かれています。日本古来の伝統工法の一部も、具体的に紹介されています。

まちと水辺に豊かな自然を 3 リバーフロント整備センター

日本で施工された多自然型川づくりの施工例がまとめられています。
木杭や木組み、石などをつかった法面、側壁の方法などが載っています。一部は、施工途中のようす、ビフォーアフターなど、画像がたくさんあります。

『大地の川』関正和

(この本の内容は、あまり登山道整備にはヒントがないかも)
著者は、建設省(当時)から(財)リバーフロント整備センターに出向していた方です。日本の土木工事に近自然河川工法がとりいれられたきっかけとなった、行政側の方です。1995年に病気で亡くなり、その後、行政側の多自然型の工法が一気に失速してしまったように見えます。
福留氏の『近自然工法の歩み』にも、お名前が出てきます。この本から、『まちと水辺に豊かな自然を』の存在を知りました。

ちょっと登山道整備からは外れますが、ところどころに出てくる「水五則」にグッときます。「水五則」とは、戦国時代の軍師、黒田官兵衛が残したとされる、水にまつわることばです。

一、自ら活動して他を動かしむるは水なり
二、障害にあい激しくその勢力を百倍し得るは水なり
三、常に己の進路を求めて止まざるは水なり
四、自ら潔うして他の汚れを洗い清濁併せ容るるは水なり
五、洋々として大洋を充たし発しては蒸気となり雲となり雨となり雪と変じ霰(あられ)と化し凝(ぎょう)しては玲瓏(れいろう)たる鏡となりたえるも其(その)性を失はざるは水なり

「水五則」

道づくりに関連する本

登山道とはいえ、山につくる道です。道つながりでいくつか参考になりそうな本を紹介します。

『山を育てる道づくり―図解 これならできる 安くて長もち、四万十式作業道のすべて』

木材を伐って運び出すには、道が必要です。少人数で林業をやっているひとたちは、最小限の幅で、できるだけコストをかけずに道をつくります。この本は、道づくり注意点、雨でも崩れにくいポイントなどが、わかりやすくまとめられています。

使う材料も、周辺で手に入りやすい木材と石が中心。本書の中では、油圧ショベルで路盤を作っていますが、歩く道幅であれば、手作業での登山道でも十分応用ができます。
崩れやすい路肩の処理、水が流れていない沢を渡るやり方、水が分散される傾斜のコツなど、参考になることが満載です。

登山道整備するなら、一冊は持っていてもいいかも。超おすすめ!

『写真図解 作業道づくり』大橋慶三郎+岡橋清元

道のない山に、伐った木を運び出すための道である作業道をつくるための必要な基本がまとめられています。
道づくりはどこに道をつけるのか?がとにかく大事なので、地質や地図からわかる情報、踏査(実際に山の中を歩いて下見する)などに多くのページがさかれています。

『現場図解 道づくりの施工技術』岡橋清元

上の『作業道づくり』を補完する内容です。具体的な道づくりの手法は、こちらのほうが詳しいです。
杉の名産地である奈良県吉野で、古くから続いている林業会社、清光林業で道づくりを長らくやっている岡橋さんの本。

『図解 作業道の点検・診断、補修技術』大橋慶三郎

大雨や経年で、道が崩れた事例をまとめた本です。ある意味、失敗例から学べるので、どういった理由で崩れるのか、どう補修していくのかが載っています。
大橋氏は、作業道界(そんなものがあるのか?(笑))の第一人者です。「大橋式」といえば、この方が広めた方法です。

『自然になじむ山岳道路:ダム付替道路の事例より考える』

グッと規模が大きくなって、ダム周辺に道路をつくるための方法をまとめた本です。
ガチ本気の道路ですので、地質や地形などのしっかりした資料が満載。「やむをえず地すべり地を通過する場合の工夫」「流れ盤斜面における注意」なども参考になります。

『マウンテンバイカーズ白書』

マウンテンバイクで利用するトレイルをどう確保するか。山を走るマウンテンバイカーも、トレイル整備やトレイルづくりに苦労をしています。地域とのつながりのつくり方など、各地で取り組んでいる事例をまとめています。

この本をまとめた平野悠一郎氏の記事「にほんのマウンテンバイカーをめぐる社会状況と課題」は、登山道の問題と共通する部分も多いです。

大きな課題となっているのは、地域で「どこまでやればよいのか」が明確でないことである。(中略)日本の多くの森林や山道において、「誰がどのように使ってよいのか」を明確に定めた制度が存在しないからだ。

『マウンテンバイカーズ白書』より

日本における野外でのレジャースポーツ活動のフィールド確保の最大の障害となっているのが、多くの森林や山道を、誰が責任をもって安全に位維持管理し、事故やトラブルの解決にあたるべきかが曖昧である点だ。このために、土地所有者や管理者が、賠償責任を問われるリスクを恐れて利用への開放や許可に消極的になっている。

『マウンテンバイカーズ白書』より

こちらの記事だけでも、一読の価値があります。

『Complete Guide to Trail Building and Maintenance』

アメリカで出版されているトレイルづくりの本。第5版。
プロの森林管理者、AMC のトレイル スタッフがかかわっています。140 年間、1,800 マイルのトレイルを構築、維持してきた経験に基づいています。トレイルを作る計画から、資金調達、設計、建設、安全性、維持に関するアドバイスまで、まとめています。
最新版は、トレイルの回復力に関する最新の考え方、アクセスしやすいトレイルの設計も追加されているそうです。

大きめの石をロープで運ぶ方法や、手道具などの紹介もあって、ちょっと違った視点からの情報が得られます。
kindle版なら安くて、翻訳もしやすいので、便利です。

その他

図解 誰でもできる石積み入門

周辺の石をつかって土地を安定させることが多い、登山道整備。石積について知っておくと、できることが広がります。
この本は、石積の基本がまとめられています。おすすめ!

まとめ

紹介した本は、新品で手に入るものもあれば、かなり古い本も入っています。図書館や中古で探したりしてみてください。
再度書きますが、『山を育てる道づくり』と『誰でもできる石積入門』は、ホントにおすすめです!

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土中の水の動き、教えています。奥多摩・青梅開場は、おひとりから開催。3人以上で出張講習します。


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