NVCの傾聴:「伝え返し」とは?
カール・ロジャースはカウンセリングの中で、相手の心を映し出すように言葉を返すことが、相手が自分自身の内面と深くつながる手助けになると考えました。これは、単に相手の言葉を繰り返すのではなく、相手の感情や考えを鏡のように反映させることで、相手が自らの気持ちや考えに気づき、自己理解を深めることをサポートする方法です。彼のカウンセリングでは、この「伝え返し」がカウンセリング全体の8割を占めていたとも言われており、相手に寄り添い、共感的に理解を示すために非常に重要なスキルとされています。
NVCを使った共感的な聞き方
私たちは日々の会話の中で、つい「何を言うか」にばかり意識が向きがちですが、実は「どう聞くか」こそが、相手との深いつながりを築く鍵になります。特に、Nonviolent Communication(NVC)では、共感的な聞き方がとても重要です。今回は、NVCを使った共感的な聞き方の練習を通じて、相手の感情やニーズに寄り添う方法をお伝えします。
繰り返しより「伝え返し」を重視する
よく「オウム返し」というテクニックを耳にすることがありますが、NVCの中では、それを一歩進めて「伝え返し」を大切にします。「繰り返す」だけでは、相手が本当に伝えたい気持ちやニーズを理解することができないからです。
「伝え返し」とは、相手の言葉をそのまま反復するのではなく、相手が伝えたい核心部分を理解し、それを確認するために言葉をまとめて返すことです。このプロセスによって、相手に「私はちゃんと聞かれている」と感じてもらうことができます。
なぜ「伝え返す」のか?
伝え返しの目的は、私たちが相手の話をどれだけ理解しているかを確認し、相手との共感的なつながりを築くためです。たとえば、次のような会話があるとします。
話し手: 「最近、仕事がすごく忙しくて、まったく余裕がないんです。家に帰っても休む暇もないし、ただ毎日がつらいだけで、どうしてこんなに追い詰められているのかわかりません。」
この時、ただ「そうなんですね、忙しいんですね」と返すだけでは、相手が感じている深いストレスや孤立感に触れることはできません。代わりに、次のように伝え返してみましょう。
聴き手: 「仕事がすごく大変で追い詰められている感じなんですね。なぜ自分がそんな状態になってしまったのか、少し戸惑っている部分もあるのでしょうか?」
このように返すことで、相手が感じている感情や混乱を共感的に受け止めていることを示し、さらに会話を深めることができます。
共感的な聞き方のステップ
それでは、共感的な聞き方を実践するためのステップを簡単にまとめてみます。
注意深く聞く
まずは、相手の言葉、声のトーン、そして表情に注目します。ただ「聞く」だけでなく、相手が伝えようとしている感情やニーズを感じ取ることが大切です。伝え返しを行う
相手の言葉をそのまま繰り返すのではなく、相手が伝えたいと思っている核心部分を要約して返します。「あなたは○○と感じているのでしょうか?」と問いかけることで、確認を取りながら進めます。謙虚さを持つ
すべてを理解したつもりにならず、「まだ完全には理解できていないかもしれない」という姿勢で話を聞きましょう。これは、相手との信頼関係を築く上で非常に重要です。
練習例:感情に焦点を当てた伝え返し
次に、具体的な練習例をいくつか紹介します。練習相手と一緒に練習してみてください。
例1: 表面的な感情に対応する
話し手: 「最近、友達とあまり話す機会がなくて、ちょっと孤独を感じてるんです。」
×繰り返し: 「友達と話す機会がなくて孤独なんですね。」
〇伝え返し: 「友達と話せないことで、さみしい気持ちがあって、でも本当はもっとつながりたい、理解し合いたいって、思っているのしょうか?」
例2: 深い感情に対応する
話し手: 「仕事がうまくいかなくて、自分が何をやってもうまくいかない気がして、不安なんです。」
×繰り返し: 「仕事がうまくいかなくて不安なんですね。」
〇伝え返し: 「仕事がうまくいかないと感じていて、そのせいで自信をなくしてしまったり、焦りを感じていたりしているのでしょうか?」
まとめ
NVCの共感的な聞き方を実践することで、単に話を「聞く」だけでなく、相手の感情やニーズに寄り添う深いつながりを築くことができます。「伝え返し」を意識することで、相手とのコミュニケーションがより豊かで意味のあるものになり、信頼関係が深まります。日々の会話の中で、ぜひこの聞き方を試してみてください。
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