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続・どこにも行けないときの本

連休が終わる。
関東はさわやかな好天に恵まれ、私も1日だけ出かけた。が、その他は家でごろごろごろごろとしており、なんだか昨日と今日の区別がつかない。
そこで、前に「どこにも行けないときの本」ということで書いたものが一冊で終わってしまい、他にもこのくくりでお話をしてみたい本がいくつかあったので続きを書くことにした。
いつになく長いので、ムリしなくていいです。あんまり得るものはないと思います。ごめんなさい。
でも、私自身は何かやり遂げた気になって眠れる気がします。まじごめん。
それではいきます。


「語るに足る、ささやかな人生 ~アメリカの小さな町で」
駒沢敏器 NHK出版/小学館文庫


で、前回の「ブルー・ハイウェイ」に続いて、のっけからまたアメリカ紀行の本になってしまった。

著者がアメリカの「スモールタウン」と呼ばれる、あまり大きくはない普通の街々をレンタカーで訪ね、普通の人たちの人生を報告する。

“ささやか”というにはいささか重くて鋭利な話なども語られ、ときどき胸に刺さる。油断すると危ない。

この本は、駒沢敏器さんという人が2005年に出した。こんな本をもっともいっぱい書いてほしかったのだけれど、残念ながら故人となられた。

ハードカバーも文庫も絶版のようですが、読む人がこれからもいてほしいな、と個人的に思っている本です。


「円空と木喰」 五来 重 角川ソフィア文庫


ある程度ご年配の方は記憶されているかもしれないけれど、その昔、円空仏ブームというようなものがあった。

私は子どもの頃からテレビばかり見て、そこで獲得した浅い知識で日々を生きているので、円空といえば素朴とか微笑みとか、この本を読むまではまあそんなイメージで「ああ、円空ね、知ってる知ってる」などとうそぶいていたのである。

で、これのどこが旅の本なんだよ、という話なのだが、こうした彫刻を残した円空や木喰といった人たちは遊行僧なのであって、私はあんまりそういうことに思いの至らないぼんやりさんであった。

遊行の人なのでそりゃもう日本全国あっちこっちに行く。円空は江戸時代の初め頃の人だけど、北海道にも渡っていって仏教の教線拡大に努めていたりする。とっても激しい求道と修行の人であり、旅人なのである。

この本を読みながら、知らない土地が出てくるとネットで検索をかけるなどして足跡を追ってみる。元は岸壁を背にした小さな漁村だった町やら岩場やら洞窟やらそんな風景がじゃんじゃん出くる。

彼らの目にした旅の空を思う。自分も行ってみたくなる。


「死ぬまでに行きたい海」 岸本 佐知子 スイッチパブリッシング


いわずとしれたエッセイの名手。ただこの本は岸本佐知子さんのエッセイ集としてはちょっと異色ということになるのでしょうか。身近な、けれどさまざまな土地に出かけていって、その印象や思い出を語る。

個人的なことになるが、出てくる町が現在の私やかつての私のライフエリアとかなりかぶっていて、読み終えて本棚にしまった後もなんだか気になってまた取り出してみたりする本になってしまった。

私も好きな横須賀の野比あたりや鶴見の海芝浦にまで出かけて行っており、とても親しみが湧きます、というか、ごめんなさい、正直ちょっと呆れています。

けれど、あんなとこ歩いてこんな文章が綴れるのだなぁ、と感服する。


「最終夜行寝台」から「瞬間最大風速」 片岡義男 角川文庫


皆様は、片岡義男はお好きでしょうか?

この令和の世にいきなりそんなこと訊かれても困りますよね。うん、きっと困るよなぁ。

どこにも行けないときの本の最後は片岡義男さんである。

「最終夜行寝台」はもうずいぶん昔の1981(昭和56)年に出た短編集なのだけれど、これの最後に入っている「瞬間最大風速」という作品を昔から偏愛している。

でかいアメ車を友人に返しに行くひまな二枚目とひとりで地方営業に回る女性演歌歌手の道行きを描いた旅の物語なのだけれど、二人が巻き込まれる雨や嵐の描写がとても好きだ。

片岡さんはこの作品に限らず、小説やエッセイで天候の描写をかなりしつこくやることがある。あまりなじみのない方は意外に思うかもしれないけれど、自然現象や地理をけっこう執拗に描こうとする作家で、こういう人って意外といなくね?みたいな気もする。

美しい女性や精悍なオートバイ、大排気量のクルマ、抑制された小粋な男女の会話など、片岡ワールドとは全く縁のない私ではありますが、雨や嵐ならそれなりにおつき合いをしてきたし、時には翻弄されたり、抱きしめ合ったりしたこともある仲である。雨だからどこにもいけないと考えてしまうのは、少しもったいないかもなあ、などと読みながら思う。

けれど、昨今の日本の雨は恐ろしく、情緒や感傷さえ過去の物にしなくてはならないのか、というような気もしていてやりきれない。


最後まで目を通していただいた方がいらしたら、おつきあいいただき誠にありがとうございました。来月も連休がありますが、もうこのようなムダに長いものは書かないようにしたいと思います。
反省しています。

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