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夜曲~ノクターン~ 感想

前置き

 今回の舞台は、A.B.C-Z五関さんが好きな友人に誘っていただいた「初の生五関さん」の公演でした。関西ジャニーズが好きな私にとって、大阪松竹座はいわばホームグラウンドなのですが、そんな松竹座が初の生五関さんの場所になるとは、なんとも不思議な縁を感じました。
 6月18日日曜日。曇天の道頓堀でみたらし団子を食し、いざ松竹座へ。友人の粋な計らいでパンフレットを奢ってもらって(ありがとう!)、五関さんや戸塚さんの素敵な顔面を眺めながら着席しました。春と夏に松竹座へ通うことがルーティンになっている私ですら初めての舞台の近さに驚き、慄き、興奮が止まらないまま照明が暗くなっていきました。
 そして怒涛の2時間が終わり、ボロボロになった私は立てなくなってしまいました。余韻として残った虚無感と絶望とどこか爽やかな感情は、私の足腰を確実に重くさせていました。
 そんな舞台『夜曲~ノクターン~』の感想をつれづれなるままに書き記します。

内容について

 総評として、「どうしてこんなことに」という言葉が一番似合う舞台であると感じました。

 主人公ツトムは冴えない放火魔ですが、サヨちゃんという火事現場に現れる謎の女の子の助言でとある場所を燃やしたら、約千年前の武士が現れた!という話なのですが、そんなファンタジーな言葉の羅列にすっかり騙されてましたね。無気力で友達も才能もないツトムが、主君に仕える正義の武士十五(演:戸塚さん)に惹かれていく様はなんとも可愛らしかったですが……。

ツトムにとって放火は冴えない日常を彩る手段にすぎませんが、その中毒性から辞められないでいました。しかし、十五の「憎き宿敵の魔女を倒したい」という想いに焚きつけられて心の中で炎が燃え上がっていく。
「今蚊帳の外から蚊帳の内に」。自然と傍観者になっていた自分が渦中の人間になることが出来る喜びを知ったツトムが、放火に使っていたマッチを十五に渡すシーンは私も燃え上がりましたね。
十五との友情だけでなく、サヨちゃんへの淡い恋心も相まってツトムは生きる意味を見つけ始めます。舞台中央でスポットライトを浴びて、両手を広げ、天を仰ぐシーンもかなり好きです。ツトムの鬱屈としているくせに、結局根は素直な性格が滲み出ていると思います。

しかし、段々と様子がおかしくなっていきます。十五が仕えている虎清は後に一国の主となる男でした。しかし、よくいえばピュア、悪くいえば世間知らずな性格のせいで、黒百合という女性に騙されてしまいます。十五や後に登場する十五と虎清の乳母、虎清の許嫁の千代姫は何とか連れ戻したいと願っていました。
この虎清と黒百合が互いに惹かれ合っている様をまざまざと見せつけられる初登場シーンは何とも美しかったです。「それはこんな夜だった。」から、かつての駆け落ちが題材となっている物語(曾根崎心中等)を引用しているセリフは、まさにいけない恋する二人を表すのに最適でした。

しかし、事は更に悪化していきます。何と、その黒百合、実は悪の手先だったのです。正体はかつて虎清に仕えており、戦死したはずの武士が魔女の魔術で姿を変えているだけなのでした。しかもその武士はなんと、千代姫と密な関係だったというとんでも展開なのです。

この正体が分かるシーン辺りから一気に雲行きが怪しくなっています。というのも、今までツトムだけでなく私達観客までも信じ切っていた「正義の味方十五」は、張りぼてだったらしい、と徐々に分かり始めるのです。
虎清が「十五と乳母が悪口を言っているのも、嫌がらせをしてくるのも全部知っている」と告白するシーンが個人的に印象的でした。あまりに十五の正義を過信しすぎていたせいで、私でさえ「は?そんなわけないだろ」って思ってしまったのです。それくらい、「正義の十五VS悪のその他」が前半部で際立ってたんですよね。本当に悔しいくらいです。
印象的なシーンとして、ここらあたりで十五に呆れてしまったツトムはマッチを返してもらうシーンがあります。明らかな失望が見えましたね。あんなに慕っていたのに、信頼というのは一瞬でなくなるものです。

そして事は最悪の事態へ進んでいきます。許嫁の千代姫の前で正体をばらす黒百合(武士)は魔女を殺し、千代姫を連れて逃げ出します。しかし、この千代姫はどこかおかしいのです。あんなのも好き合っていたのに、過去の記憶がまるでない。そして黒百合(武士)は二の腕に入れた揃いの刺青がないことを見て、千代姫は偽物であると気づきます。さらに本物は、既に十五と乳母に殺されていることが発覚します。虎清との縁談を断るわけにはいかないからです。
まさかすぎますよね。ツトムが信じていた、単純構造の善悪はこれでもう何もかもが瓦解しました。ここからはラストまでずっと最悪です。十五は、真実をばらした偽の千代姫を殺し、自分の人生、そして思いを吐露します。「虎清とは逆の乳を吸って育った俺の宿命だ。」重たすぎて、その気持ちがどれほどまで大きかったか図り知れません。そして、十五は黒百合を庇った虎清までも殺してしまいます。主君なのに、虎清の為に刀に血を吸わせてきたのに。その後、鬱憤を全てぶつけるかのように虎清を刺していきます。何度も、何度も。そして死の間際に立ちながらも尚、黒百合を追っていた虎清は最期、黒百合に介錯されます。
ここの黒百合の思いに感情移入しすぎて大泣きしました。どんな思いで虎清に襲い掛かる十五の刀をはじいたのだろう。千代姫の許嫁は虎清と知っていたし、虎清は主君だったし、ずっとだましていた存在だったし、幾重にも重なった複雑な思いの中でたった唯一「虎清の残酷なまでの素直さ」に心を奪われたのは、何よりも黒百合だったのかもしれないです。黒百合と虎清二人のシーンの中で「どうして私を疑わないのですか?」と聞く黒百合に対し、「難しいことは分からない。でも、信じたいと思うものを信じるだけ」と言っていた虎清を思い出して更に決壊しました。

さてここまで読んだ方は何となくお気づきかと思います。ツトムどこいった?ツトムはまた、蚊帳の外に成り下がっていました。どの場面にも必ずいるのですが、どんなに口を出そうとも皆止まらないんです。偽の千代姫を殺そうとした十五を止めようとするんですよ。でも、それすら振り払うんです。すっかり意気消沈したツトムはいつの間にか消えていたサヨちゃんに話しかけます。「また蚊帳の外だよ。わけわからないよ。」そして「こんな場所から逃げよう」とも。でも、サヨちゃんは渦中に飛び出していきます。今もう黒百合(武士)と十五が死闘を繰り広げている真っ最中の中にですよ。ツトムも呼びかけますが、応じません。そして、サヨちゃんは「燃やして」と言います。「これは私の夢なの」と。サヨちゃんが袖をめくると、腕には黒百合(武士)との揃いの刺青が。なんと、サヨちゃんはかつて十五に殺された本物の千代姫でした。
ここの解釈が分かれますが、個人的にサヨちゃんは皆、恨みや悲しみを抱えたまま眠るのは可哀想だからいっそのこと全て燃やしてほしい。そう思って現代にやってきたのだと思いました。
サヨちゃんの苦痛の声を聞きながらもなお、燃やすことが出来ないツトム。しかし、最終的には十五から取り返したマッチを使って再び放火してしまいます。ここが本当に最悪でした。今まで血みどろの戦いを見ていたのにも関わらず、一番最悪です。もう放火はしないと決心したツトムが、また再びマッチに火をつけてしまったんです。好きだったサヨちゃんも、十五も、皆炎に包まれて消えて行ってしまうんです。ただ残るのは、灰だけ。まるで虎清が幻影を追っていたと同じように、ツトムもまた幻影を追っていたに過ぎなかったのです。
虎清は劇中世間知らずなことがかなり誇張されてしました。そして、それを嘲笑う十五と乳母もたしかにいました。そんな虎清の姿がツトムに重なって見えました。しかし、ツトムには虎清のような恋も愛も友人も権力も素直さ今はもうありません。鬱屈した冴えない青年なのです。たった一晩の出来事が、まさに灰となって堆積しつづけると考えたら。そう思うと、また涙を流すに他ありませんでした。

五関さんと戸塚さんについて

 前述のとおり、五関さんの演技は初めてだったのですが、良かったですね……!五関さんがマッチに火をつけながら、淡々と語るシーンから始まるのですが、声量と圧が凄くて早速引き込まれてしまいました。また、冴えない青年なのに敵との戦闘シーンになると軽やかなアクロを織り交ぜながら倒していくところは、やはりジャニーズであるなと感じました。元より、五関さんはダンスやアクロが得意な方だとは知っていましたが、やっぱり生で見ると軽やか過ぎて凄いです。友人が言っていた「ラスト火事から逃げ惑うシーンの体の使い方が上手い」も納得です。ただ、逃げ惑うだけじゃなくて体の使い方が分かっている人の逃げ方だなぁと思いました。
 あとはやはりそのキャラクターとの親和性ですね。冴えないとはいうもののどこか愛らしさのあるツトムがぴったり似合います。そのせいで十五への過信も加速してしまいました。
 そして、戸塚さんも凄い。元は塚田さんが担当していたのですが、体調不良の為戸塚さんに急遽変更となりました。しかしこちらも親和性が凄い。正義感があるけれど、今思えばどこか影を落としている役なんて真骨頂じゃないですか?
 この二人の掛け合いもやはり長年の絆あってかぐっとくるところがありましたね。五関さんが火をつけて、戸塚さんの咥えている煙草に火をつけるシーンは友情の延長線上であり、どこか官能的で美しかったです。というか戸塚さん横顔が綺麗すぎる!タバコを吸うのに慣れてらっしゃる感じもまたいいですね。
 五関さんは特に舞台向きの演技だとひしひしと感じましたね。声の圧、説得力、体の使い方。全てにおいて生で見る価値のある演技だと思います。戸塚さんのその醸し出す雰囲気は舞台でも映像でも見せることが出来るだろうと思いました。
いやー二人の演技にすっかり魅了されてしまいました。是非他の演技も見てみたいものです。

最後に

 とんでもないものを観劇出来て本当に楽しかったです。心が揺さぶられるというか、わしづかみにされて握り潰されるような感覚のする舞台でした。
そして願わくば、塚田さんバージョンの十五も見たいと思いましたね。また違った『夜曲~ノクターン~』が見れるでしょう。
誘ってくれたAちゃんありがとう!今度は、一緒にライブに行こうね!

お粗末さまでした。

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