日記 11/1~7 2021
1日。
ビルボード東京で久々のアジカン単独公演。演奏をするための身体というのは、コンサート活動を継続することによって維持されていたのだと痛感した。音楽家やバンドマンにもアスリート的な身体部位がある。上腕二頭筋やハムストリングのようには目立たないが、微細な筋肉を使っている。魂も含めて、コロナ禍で萎縮した部位に血液と情熱と興奮を送り込む。関係ないけど、消費税率が高すぎる。
2日。
ビルボード2日目。2ndステージのアンコールでカーテンが開き、六本木の夜景が露になるとき、素朴に綺麗だなと思った直後に、とても複雑な気分が湧き上がる。そして塔のように屹立するビルディングが踏みつけている何かを直感する。自分もきっと現在地からの遠近に関わらず、誰かを無自覚に踏みつけている。そうしたことを感じないまま生きることが幸せなことのか不幸なことなのかは分からない。
3日。
文化の日。日本国憲法の制定を記念した国民の休日とのこと。未来に憲法を改「正」するならば9条ではなく、国民の三大義務を権利に書き換えてほしい。勤労が権利ならば労働環境は劇的に良くなるだろう。働きたい人には何らかの仕事が用意される。教育を受ける権利はすべての人にあるはずだ。納税だけ解釈が難しいが、納めない権利ではなく有意義な使用を望む権利とし、政府はその義務を負う。
4日。
行きの電車の中で深い眠りに落ち、スタジオについても身体が思うように動かない。仕方がないので、リハーサルを夕方に切り上げさせてもらい、ベッドで休んでいるうちに気絶するように寝てしまった。ソファに投げ捨てたキャップの真ん中には、元々付いていたマークを隠すように検温済のシールが貼られていた。このまま帰ってきたのかと恥しくなったが、あまり記憶がないので忘れることにした。
5日。
今週は休むつもりでいたが、CBSまで機材を返しに行き、新曲の仮歌を録音した。アルバム制作は順調で、残り1曲の歌詞を書けば作詞作曲の作業は終わる。編曲も8割は終わっているので、あとはレコーディングしながら現場で詰めていくことになる。問題はスケジュールで、ツアー終了後は大変に過酷な働き方をしないといけない。それでも、楽しい。WWW期の密室感が鮮やかに反転するような季節。
6日。
疲労回復を目指して大蒜料理をたくさん食べたところ、深夜になっても口内が大蒜臭く感じられて困った。それは鼻腔に感じる直接的な臭みではない。しかし、旨味成分のような物質に届かない何かが後悔の念のように粘膜に張り付いている。それが呼吸の度に気化し、寝室に充満していくように感じられてリラックスできない。疲労回復を目指して、いくらかの精神がすり減る。大蒜は美味しいが、本末転倒。
7日。
友人の録音のセッティングの手伝いをする。マイクは面白い。レコーディングにおいて最も大切なのは良い演奏だけれども、その次に重要なのはマイクだろう。何しろ演奏者や楽器の一番近くに在り、音を拾う機器なのだから当然のことだとも言える。高価なマイクは素晴らしい。しかし、目的の音楽に合っているとは限らない。組み合わせの難しさは道の半ばに転がっているが、最初からケチってはダメ。