きのこ先生の娯楽
2014/11/16 記
人の縁というものは不思議なものでやたらと巡り会わせることもある。
初犯の東京拘置所に勤めた時に知り合った逸平くん。
その後、俺が甲府に勤めた時も工場こそ違えど一緒で、そしてまたここ、月形刑務所の新入訓練で一緒だった。
確か俺より少し早い出所でハガキを入れとくと言っていたから、先日の出所時交付の受信は彼かなと思っている。
この、ひとつ上の先輩のことを俺は「きのこ先生」と呼んでいる。
奴は眠剤のエリミンを、まるでピーナッツのように食ってる男で、しょっちゅうスロット店で力尽きている。
最初は救急車で運ばれたものの、最近は常連で寝てたら表に放り出されるだけとなった。
そして何がすげえのかというとキノコだ。俺もキノコは好きだが奴は尋常じゃない。
車で出掛けて行っては、白樺に入り込んだり、牧場の牛のクソにキノコを探す。手にはキノコ図鑑を持って。
そして目指すキノコを見つけると図鑑と照らし合わせる。
記述に、
「嘔吐の後、腹痛」
なんてのはパス。
しかし、「腹痛の後、幻覚」なんて書いてあれば迷うことなくゲット。持参したコンビニの袋に入れる。
「幻覚」の文字が大事だ。
ベニテングダケのように見るからに毒々しいのもあるが関係ない。
車で海まで行くと浜辺に降り立ち、とってきた生のキノコを目を瞑って口の中に放り込む。
こんなふうに毒キノコを頬張るバカがいるか?下手したら命落とすぜ。
先生は、急な腹痛にうなりながらうずくまる。
この時、待っていた幻覚がまるでフラッシュを焚かれたようにして始まるらしい。
ああ、俺どうなっちゃうんだろう……ってワクワク感がたまらないらしい。
完全なアホだ。
恐ろしくてとてもじゃないが付き合ってられない。
その後先生は砂浜で目を覚ます。
いつも時間からして6時間くらい寝ていることになるらしい。
最初に車を止めた場所を探せば、何キロも離れた場所まで来てるという。そして腹の筋肉がやけに痛むと。
多分笑いながら砂浜を歩いて力尽きたんだろうなって。
気がつくと、下半身は丸出しでクソまで漏らしている。
それでよく通報されないもんだ。
下半身裸で笑いながら歩いてくる男がいたら相当怖いよ。
理解できねぇ。
フラッシュが始まってから気づくまで、何も記憶がないのに一体何が楽しいのか。
この人絶対変な死に方するよね。
逸平ちゃん、また会うかどうかは考えさせてくださいね。
PS
その後はヤクザになってた逸平くんだがfacebookで電話が来た。
いつのまにかまたお互いに勤めに行ったけど、そうだ、今日連絡してみようかな。
(写真)きのこ先生