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営業はプロジェクトマネジメント力(第1章~第2章/100円)

―1章 「営業はプロジェクトマネジメント力である」とは―
 
プロジェクトマネジメント力について
はじめに「営業はプロジェクトマネジメント力である」ということはどういうことなのかについて、皆さまと認識のすり合わせをしたいと思います。特に「プロジェクト」という言葉の定義です。
一般的に「プロジェクト」と言うと、お客様から正式に受注をした後に、目的設定、スケジュール管理、品質管理等を経て最終的に導入・運用等を行うまでの活動を想像されるかと思いますが、本書で言う「プロジェクト」とは、営業担当者がお客様を(初回)訪問し、受注を獲得するまでの前段階の活動を指しております。つまり、一般的な「プロジェクト」とは指している部分が異なっていて、この前段階の活動をマネジメントする力を「プロジェクトマネジメント力」と表現していますので、ご理解ください。
加えて強調したいのが、あえて「プロジェクト」という表現を使用しているということです。
というのも、私たちが日々お客様に提案し、お客様との協同取組として推進している活動は、私たち営業担当者にとってはごく普通の日常的な活動であっても、お客様にとってはそれが非日常的な活動にあたることが多いと思うからです。
また、お客様にとって特別なものとして位置づけてもらいたいということもあり、私はお客様の前でも、あえて「プロジェクト」という表現を使用しています。
ただし、はじめからこの呼び方をすることに対しては多少のリスクもあると感じています。お客様によっては、「え?誰がプロジェクト化することを許可したの?勝手に決めないでほしいんだけど…」と感じてしまう人もいるためです。ここはお客様の性格や立場、提案する内容の重要度合いにもよるかと思いますので、適宜ご判断ください。
ちなみにですが、私の場合は、関係者がある程度そろい、取り組みの意義が明確化でき、双方のキャッチボールが目に見える形で進んできた段階で「プロジェクト」という名前を使用するようにしています。個人的な感覚になりますが、案件をいただいてからプロジェクトが完遂するまでの総期間のうち、始めの三分の一くらいが終わった段階でこの言葉をお客様の前で使い始めることが多いように感じます。
このような、法人営業にとって必要な「プロジェクトマネジメント力」ですが、私はこれを行うためには、2つの要素を習得する必要があると思っています。
1つ目は論理的正確性、2つ目は情緒的納得性です。それぞれについて、詳しくご説明します。
 
論理的正確性
まず、1つ目の論理的正確性です。
論理的正確性というのは、わかりやすく言えば、「言っていることが正しそうか?」「言っていることを実行すれば本当に課題が解決できそうか?」という感覚です。私たち営業担当者が提案する内容に対して、お客様からこの感覚を持っていただけない場合、残念ながら営業活動が前に進むことはほとんどありません。お客様が理解し、納得し、腹落ち感を持っていただけるような提案をした時に初めて、案件が前に進む可能性があるのです。
そのために求められるのは、論理的に考え、伝えることができる力です。なぜその商品やサービスが適しているのか、他社の類似商品やサービスとはどこが異なり、それぞれどのようなメリット・デメリットがあるのか等を整理し、わかりやすく伝え、共感していただくことが求められるのです。
 
情緒的納得性
次に、2つ目の情緒的納得性です。
情緒的納得性というのは、わかりやすく言えば、「その人に言われて動きたいと思うか?」「その人に提案された内容を実行してみたいと思うか?」という感覚です。日常で置き換えて考えればわかりやすいと思います。
例えば、異なる二人の上司や先輩から全く同じことを言われたとしましょう。ある人から言われた時は「わかりました。」と口では言うものの、その後全く何も行動しなかった一方で、別のもう一人から言われた時は「わかりました!すぐにやります!」となって必死にそれに応えようと頑張った経験はありませんか。まさにこの感覚です。
これと同じように、「この人が言うのならば、言うことに従ってみよう。」とお客様に思っていただけることがプロジェクトを推進する上ではとても重要です。
このように思っていただくためには、当然ながらお客様との間に信頼関係を築く必要があります。そして、そのために私たちには、プロジェクト案件以外の何気ない日常から丁寧な営業活動を行うことが求められるのです。
信頼関係の築き方についての詳細は様々な本で紹介されておりますので、そちらにお譲りしますが、難しいテクニックは必要ないと思っています。参考までに私のやり方を一つ紹介しますが、私は「相手の関心事に関心を持つ」という気持ちを大切にしてお客様と接しています。
「自分がお客様だったらこんなことに困るだろうな。」「自分がお客様だったらおそらくこのあたりを懸念点として考えるだろうな。」「自分がお客様だったら自社に来る営業担当者にはこんなことをしてもらいたいだろうな。」といった具合です。このように、常に相手の関心事に関心を持つことさえできていれば、小難しいテクニックを使わなくても、自然とお客様に信頼されていくはずです。やや細かいですが、ポイントは「相手に関心を持つ」ではなく、「相手の関心事に関心を持つ」ということです。
次章以降、この2つの要素をベースとして、営業観点での「プロジェクト」をうまくマネジメントしていくための各ステップですべき行動を紹介していきます。
ぜひこの2つのキーワードを頭の片隅において読み進めてください。
 
―2章 プロジェクト化に向けた事前準備―
 
自らでプロジェクトを発足するという感覚を持つ
ここまでの中で「プロジェクト」という単語を多用してきましたが、お客様を訪問したからと言って、すぐにプロジェクト案件をいただけるわけではありません。
そもそも、既にお客様の中でプロジェクトとして存在していることもあり、その場合は当然、外部の私たち営業担当者はその中に入れてもらえる可能性は低いことが多いのです。
そのため、私たちは既にあるプロジェクトに混ぜていただくのではなく、自らプロジェクト案件を提案し、自らの力でそれをプロジェクト化するという感覚を持つことのほうが重要になります。
まれに、既存のプロジェクトが様々な事情でペンディングしており、たまたまそのタイミングで私たち外部の営業担当者に相談が来て、結果的に混ぜていただけることもありますが、それはラッキー案件くらいに思っておきましょう。ここでは、どうやって自らの力でプロジェクト化するかということについて紹介します。このような力こそが真の営業力であり、今後ますます必要になってくる力だと思っています。そして、これこそが営業の醍醐味でもあるのです。
 
プロジェクト化への道のり① ~仮説を構築する~
私たち営業担当者は、その時お客様が抱えている課題を打ち明けていただくことで業務が始まりますが、打ち明けていただくために必要になるのが、自分で設定する仮説課題です。
仮説課題とはその名の通り、私たちが仮に設定した、お客様がおそらく抱えているだろう課題を指します。仮説課題の重要性は、ある程度の営業経験をされた方であれば幾度と耳にしていることかと思います。私も同様で、仮説課題の構築は非常に重要だと思っています。
仮に自分たちがお客様の立場であると想定した時、いきなり、営業担当者からオープンクエスチョン的に「御社の課題は何ですか?」「世の中では○○のようなトレンドになっていますが、御社はこれについてどう対応しようと思っていますか?」なんてことをいきなり言われてしまうとびっくりしてしまいますよね。もしくは、どのくらいの細かさで回答したらよいか困ってしまうでしょう。まさに仮説課題のない状態での営業というのが、この状態です。
一方で、仮説はクローズドクエスチョン的な要素も持っていますので、仮説があることでお客様にとっては回答しやすくなります。その仮説に対する自分自身の考えを話せばいいからです。加えて、仮説があることでお客様からの回答が拡散しすぎる可能性も抑制することができます。
このような仮説課題ですが、構築する際に大切にしていることがあります。
それは、ある程度の時間をかけてしっかり作成するということです。
人によっては、時間を優先しすぎて仮説の作成をないがしろにして、当日の勢いで勝負をしようとする人がいらっしゃいますが、私はおすすめしていません。当然、時間は有限ですので、仮説課題の構築に時間をかけすぎて肝心のお客様との商談時間を確保できない、先送りにしすぎるというのは本末転倒ですが、可能な限り、丁寧に時間をかけて作成したほうが良いでしょう。
なぜかと言うと、仮説課題の精度によって、お客様から得られる返答内容の精度も大きく変わってくるからです。ざっくり設定した仮説に対しては、ざっくりとした答えしか返してくれませんが、細かく設定した仮説に対しては、細かい答えを返してくれるということです。これは仕事のみならず、日常の会話でも同じです。
例えば、私は車が好きなのですが、「どんな車が好きですか?」とざっくり聞かれたら、「今乗っているスバルのレガシィが好きです。」としか答えないと思います。
「どんな車が好きですか?」というざっくりとした質問をしてくるということは、「あ、きっとこの人は詳しい答えを望んでいるわけではないのだろうし、おそらく詳しく答えたところで、たぶんわからないだろうな。」と思ってしまうからです。
一方で、「かれこれ10年以上、スバルのレガシィを大切に乗っていると伺いました。スバルの車は他のメーカーとは構造が異なる水平対向エンジンを搭載していて、その独特な排気音から、熱狂的なファンが多いとよく聞きます。やはりそのあたりがお好きなのでしょうか?」と聞かれたらどうでしょう。
おそらくですが、私は「そうなんです!実はレガシィ自体は2台目でして、今は2003年登録の4代目のツーリングワゴン型に乗っています。純正のオプションパーツできれいにドレスアップしているのが自慢です。私も水平対向エンジンや、ボロボロ音の排気音がたまらなく好きでマフラーも変えています。デザインも最高で、ガソリンが枯渇するまで乗り続けたいと思っています。でも最近、色々なところにガタが来ていまして…」といった具合に、聞かれてもいないことを延々と気持ちよさそうに答えてしまいそうです。
少し極端かもしれませんが、こういうことです。
しっかり調べ、作りこまれた仮説(質問)に対しては、お客様は丁寧に反応してくださります。「この人はしっかり調べてきているのだな。それであれば、踏み込んで答えてもおそらく理解し、共感してくれるだろうな。むしろ、適当な答えをしてしまうのは失礼かもしれないな。」と思ってもらえることを目指してみてください。
 
プロジェクト化への道のり② ~仮説を検証する~
前述した内容に沿って仮説課題を作りこむことができれば、いよいよそれをお客様にご提案し、仮説の検証をすることになります。仮説は検証するために作るものです。作って満足せず、必ずお客様に伝えて検証しましょう。
この検証する場面において、私が大切にしていることが2つあります。
1つ目は、仮説課題を検証していただく相手です。結論から言えば、お客様の課題に精通しており、その課題解決に向けて周囲を巻き込み、推進していく力を持っている人に検証していただくことが重要です。もちろん、取締役や部長クラスなど役職のある方のほうが、このような力を持っている可能性は高いのですが、必ずしもそうとは限りません。昨今の人手不足により社内での権限移譲もだいぶ進み、役職がなくても、このような力を与えられている社員の方も多くなっていると思います。役職だけで決めつけないようにしましょう。
そして2つ目は、仮説課題の正解・不正解にこだわりすぎないということです。
入社したての私がまさにそうでしたが、自分で設定した仮説課題が間違っていることに恥ずかしさのようなものを感じてしまい、お客様に「その通り」という回答をもらうことに注力してしまっていた時期がありました。今振り返ってみると、なんと無意味なことだったのだろうと反省しています。
仮説課題の設定は、その正解・不正解を確認することが目的ではありません。先述の通り、お客様から回答してもらいやすくする狙い等もありますが、最終的には、お客様が抱えている真の課題を共有していただくことが目的なのです。
最終的にこの目的さえ達成することができれば、そのために用意した仮説課題が間違っていても何ら問題はないのです。仮説課題はあくまでも、真の課題を共有していただくための弾の1つであり、それが正しかったことを証明しようとしすぎると、ミスリードをする可能性が高まります。私のように認識間違いをしないよう気を付けてください。
ちなみにですが、後輩や同僚から、「どういう聞き方をしたら、お客様は真の課題を話してくれるのですか?」と聞かれることが多々ありますので、ご紹介します。
私は、「お客様の中には課題がない、もっと正確に言えば、外部から見た限りでは課題がないように見える」ということを前提にしてお客様と話すことを大切にしていました。
具体的には、まずこちらから事前に用意していた仮説を提案し、お客様からよくある一般的な反応をいただいた後に、「でも、実際のところ、ここまで深刻な課題はお持ちではありませんよね?」や「御社ほどの技術力であれば、私どもの提案内容はすでに実践されていますよね?」といった感じでお伝えするのです。
そうすると、意外と「いや、実はそうでもなくて…」のような返答をもらえたりするものです。そして、経験上ですが、この「しいて言うなら…」という部分に、実はお客様が長い間悩まれていた課題があることが多いように感じます。
 
プロジェクト化への道のり③ ~課題を深堀し見極める~
このような形で、窓口のお客様の口から出てきた内容をそのまま素直に受け止めて、「これこそが今、お客様が最も解決しなくてはいけない重要な課題だ!」と早まってしまい、その課題解決に向けてすぐに動き出してはいけません。
お客様から話していただいた内容を整理し、本当に解決すべき問題なのかを見極める必要があります。ここでは、この見極めについてお伝えします。ちなみに、私の会社では、この見極めを「筋が良い/筋が悪い」と呼んでいます。
私がこの見極めをする際、4つのポイントを意識していますので、それぞれお伝えします。
まず1つ目は、現状と目標が明確になっているかどうかです。

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