スクールカウンセラー、学校を歩く
異境を歩く
私は学校を良く歩く。
歩くことで、学校という異境が見えてくる。
臨床心理士というと、リクライニングチェアで静かに患者の語りに耳を傾けている。
そういうイメージが強そうだ。
ただスクールカウンセラー(SC)の私は、わりとよく動いている。
授業中の生徒や教師の様子。
部活動の雰囲気。
廊下や休み時間の、生徒たちの行動や会話など。
歩き回っていろいろと見させてもらう。
いろいろとおしゃべりもする。
ただぼんやりと散歩しているわけではない。
そこには、スクールカウンセラーにとって大切な情報がたくさんある。
診察室にいて話を聞くのとは、世界の見え方がまるで変わってくる。
すごく鮮やかで生々しい。
落ち着きのない子、いじめられて孤立しているような子、勉強が理解できなさそうな子、教師とうまく行かない子。子どもとうまく行かない教師。
学校では毎日いろいろなことが起きている。
心理士のまなざしで、それらを見つめる。
SCに見えてくるもの
「じっとしていられなくて、教室を飛び出してしまう子」がいる、とする。
診察室で聞けば「落ち着きのない衝動的なAD/HD(注意欠陥多動性障害)ですね。」などと判断するかもしれない。
SCは授業を見に行く。
たしかにじっとしていられない子どもが目に入る。
ただ、私は教室全体のありようを観察する。
よく見れば、その子をからかってちょっかいを出す子がいる。
教師に見えないように、たくみに挑発している。
それに対して、本人はいらいらを爆発させる。
それを注意する教師。
彼は、子どもがなぜ怒り出したかを聞こうとしない。
一方的に𠮟りつけるだけだ。
叱られた子どもは絶望的な表情になって、教室を飛び出す。
面白がって、はやしたてるまわりの子どもたち。
ここではそういうやりとりが繰り返されている。
あとで教師に話を聞く。
「困ったものですよ。しつけが悪いんでしょうね。発達障がいかもしれないな」
SCは、自分から見えた子どもたちの様子を彼に説明する。
教師に協力して、良いクラスを作れるように知恵を出していく。
こういう仕事は、じっとしていてはなかなかできないだろう。
SCの役目
学校は、教師や子どもたちの心が行きかう場だ。
そこには、さまざまな思いがぶつかったり、すれちがったり、からまっている。
SCは歩きながら、それらを見つめる。何ができるかを考える。
それが、学校という異境に一人だけいる臨床心理士の役目だと思う。