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きっと悟ってみせる

オンライン会議中にばばばばっ、ばばっ、ばばばばっ、と音がする。突然の轟音に騒然。

参加者の一人が「うわあすごい、いまうちのそばでヘリが3台も飛んでるよ」とはしゃぎだす。マイクが家の外のヘリコプターの走行音を拾ったらしい。近所に飛行場があるのだとか。「これは...何かあるな」としたり顔でつぶやく彼。

いや、本当はしたり顔かどうか知らない。音声のみのオンライン会議だから。世間的にはビデオ会議をする会社の方が多いのかな、と思う。ZOOMにSnap Cameraを連携すればメイク不要、みたいな記事を読むと。

牛乳を切らしたので近所のコンビニに行く。帰り、知らない脇道を見つけ、入ってみる。水を打ったように静かな住宅街。

人一人分の幅しかない道を歩いていると、どこからともなく風鈴の音がする。また音がする。もっと音がする。もっともっと音がする。たくさんの風鈴が一斉に鳴っている。風もないのに。

怖くなり、歩くスピードを上げる。道を抜けるといつもの海が見えてきたので安心する。安心して、来た道を振り返ってみる。

お前は侍である。侍なら悟れぬはずはなかろうと和尚が言った。そういつまでも悟れぬところをもってみると、お前は侍ではあるまいと言った。人間の屑じゃと言った。ははあ怒ったなと言って笑った。口惜しければ悟った証拠を持ってこいと言ってぷいと向こうを向いた。けしからん。
 隣の広間の床に据えてある置き時計が次の刻を打つまでには、きっと悟ってみせる。悟ったうえで、今夜また入室する。そうして和尚の首と悟りを引替えにしてやる。悟らなければ、和尚の命が取れない。どうしても悟らなければならない。自分は侍である。

夏目漱石(著)「夢十夜」『文鳥・夢十夜・永日小品』角川書店,p.36

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