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オタンチン・パレオロガス
ひんやりとした朝。出社すると、同僚が今朝も暑いですね、と言い、もう一人の同僚もうなずく。え、涼しくなかったですか、と二人に反論し、今朝が暑いか涼しいかで軽い論争が勃発する。
昼、ドトールで夏目漱石『吾輩は猫である』。夜、苦沙弥先生の家に泥棒が入る。その様をただ眺めるだけの猫。翌朝、警察から盗難告訴状に被害物をリストアップするよう言われる苦沙弥家。
主人は筆硯を座敷の真中へ持ち出して、細君を前に呼びつけて「これから盗難告訴をかくから、盗られたものを一々云え。さあ云え」とあたかも喧嘩でもするような口調で云う。「あら厭だ、さあ云えだなんて、そんな権柄ずくで誰が云うもんですか」と細帯を巻き付けたままどっかと腰を据える。「その風はなんだ、宿場女郎の出来損い見たようだ。なぜ帯をしめて出て来ん」「これで悪るければ買って下さい。宿場女郎でも何でも盗られりゃ仕方がないじゃありませんか」「帯までとって行ったのか、苛い奴だ。それじゃ帯から書き付けてやろう。帯はどんな帯だ」「どんな帯って、そんなに何本もあるもんですか、黒繻子と縮緬の腹合せの帯です」「黒繻子と縮緬の腹合せの帯一筋――価はいくらくらいだ」「六円くらいでしょう」「生意気に高い帯をしめてるな。今度から一円五十銭くらいのにしておけ」「そんな帯があるものですか。それだからあなたは不人情だと云うんです。女房なんどは、どんな汚ない風をしていても、自分さい宜けりゃ、構わないんでしょう」「まあいいや、それから何だ」「糸織の羽織です、あれは河野の叔母さんの形身にもらったんで、同じ糸織でも今の糸織とは、たちが違います」「そんな講釈は聞かんでもいい。値段はいくらだ」「十五円」「十五円の羽織を着るなんて身分不相当だ」「いいじゃありませんか、あなたに買っていただきゃあしまいし」「その次は何だ」「黒足袋が一足」「御前のか」「あなたんでさあね。代価が二十七銭」
夏目漱石『吾輩は猫である』[Kindle版]青空文庫,Kindleの位置No.3243
泥棒は、住人の普段着の他に、山芋も盗んでいた。苦沙弥先生の元書生、多々良三平君からの貰い物で、奥さんが自分の枕元に置いていたものである。
「それから?」「山の芋が一箱」「山の芋まで持って行ったのか。煮て食うつもりか、とろろ汁にするつもりか」「どうするつもりか知りません。泥棒のところへ行って聞いていらっしゃい」「いくらするか」「山の芋のねだんまでは知りません」「そんなら十二円五十銭くらいにしておこう」「馬鹿馬鹿しいじゃありませんか、いくら唐津から掘って来たって山の芋が十二円五十銭してたまるもんですか」「しかし御前は知らんと云うじゃないか」「知りませんわ、知りませんが十二円五十銭なんて法外ですもの」「知らんけれども十二円五十銭は法外だとは何だ。まるで論理に合わん。それだから貴様はオタンチン・パレオロガスだと云うんだ」「何ですって」「オタンチン・パレオロガスだよ」「何ですそのオタンチン・パレオロガスって云うのは」「何でもいい。それからあとは――俺の着物は一向出て来んじゃないか」「あとは何でも宜うござんす。オタンチン・パレオロガスの意味を聞かして頂戴」「意味も何にもあるもんか」「教えて下すってもいいじゃありませんか、あなたはよっぽど私を馬鹿にしていらっしゃるのね。きっと人が英語を知らないと思って悪口をおっしゃったんだよ」「愚な事を言わんで、早くあとを云うが好い。早く告訴をせんと品物が返らんぞ」「どうせ今から告訴をしたって間に合いやしません。それよりか、オタンチン・パレオロガスを教えて頂戴」「うるさい女だな、意味も何にも無いと云うに」「そんなら、品物の方もあとはありません」「頑愚だな。それでは勝手にするがいい。俺はもう盗難告訴を書いてやらんから」「私も品数を教えて上げません。告訴はあなたが御自分でなさるんですから、私は書いていただかないでも困りません」「それじゃ廃そう」と主人は例のごとくふいと立って書斎へ這入る。細君は茶の間へ引き下がって針箱の前へ坐る。両人共十分間ばかりは何にもせずに黙って障子を睨め付けている。
同上
帰宅して部屋で奥さんと夕食を食べたあと、奥さんが急にタピオカが飲みたいと言い出すので、タピオカを出す店まで一緒に散歩する。涼しい夜気が肌に心地よいが、奥さんは少し肌寒いと言う。店でタピオカをテイクアウトして、飲みながらとんぼ帰り。若い女性ばかり賑わう店内を想い出し、あの店には俺一人ではとても行けないねと奥さんに言うと、そうかなあ、と言われる。タピオカの一粒ひと粒が異様に腹持ちがよく、お腹いっぱいになる。
そのあとジム、『ミメーシス』。中世ヨーロッパに広く普及する騎士道物語は、貴族階級の理想的な作法と倫理観を描く。冒険による成長と恋愛の二つが主要テーマで、魔物が登場したりするメルヘンな世界観。一方、キリスト教の普及に伴う民衆向けの宗教劇の興隆により、日常リアリズム描写の劇的効果が粗野な水準にまで高められていく。
帰宅して、昨日分の日記を書いたあとに風呂に入る。SmartNewsのトップに並ぶ記事。
・開場1か月前の豊洲市場でひび割れ 都、昨秋から未発表(朝日新聞デジタル)
・「長官はものすごい剣幕で…びびっちゃう」岡口判事会見(朝日新聞デジタル)
・パナソニック、421億円申告漏れ大阪国税局指摘(朝日新聞デジタル)