10のまちがいさがし
鍵を部屋に忘れた。家に帰れない。ジムに行っている奥さんが部屋に戻るまで、あと2時間はある。
とりあえずお腹が減った。近所の公園の生け垣に腰かけて、コンビニで買ってきたパリパリサラダを食べる。
食べながら、Radikoで菊地成孔の「粋な夜電波」の最新回を聴く。サイゼリヤのキッズメニューの『10のまちがいさがし』について、あれは『8つのまちがいさがし』が本当で、出題者は残り2つは必ず見つからないように作っている。と疑いたくなるくらい、全部のまちがいを見つけるのが難しいという話。複数回チャレンジしていると問題の傾向が分かるようになり、最近は10個全てのまちがいを見つけられるようになってしまった、なんだか哀しい、とのこと。人間、ろくに勉強なんてするもんじゃないですね。
日差しは朝から強烈で、コンクリートの地面から湯気が立ちのぼる。熱中症になりそう。おのれの吝嗇心と葛藤した挙句、駅前のスタバに退避する。
Kindleで漫画『ブルーピリオド』を読む。最新刊3巻の発売を知り、復習のため1巻から読み直す。これまでのストーリーを細かく憶えていないから。これはつまり、読み直す分もカウントすれば、3冊分のボリュームを楽しめる訳で、3巻はお値段以上の価値を手にすることができる。いや、そんなことはないか。
美術に目覚めた高校生が東京藝大受験を目指すという粗筋。読みながら、作中人物たちと共に、芸術に対する視点がひとつずつ豊かになってゆく感じが魅力的な漫画である。
3巻は、美大予備校で主人公たちに課される課題が面白かった。藝大受験の模擬課題だが、その内容は抽象的である。「わたしの大事なものをテーマに描きなさい」「このケーキの箱を使って”私の部屋”をテーマに製作しなさい」「室内を取材して描きなさい」等など。「わたし」って誰?その「わたし」にとって「大事なもの」ってどういう意味?それをどうやって絵にする?なんでその構図と色なの?なんでなんでなんで、と主人公の内省が続く。創作のプロセスは、論理的思考の積み重ねでもあることが追体験できる。過去の成功に気をよくして、つい過去の自分の模倣に陥ってしまう展開も、主人公に容赦がなくて良いなと思う。
奥さんからもう部屋に戻った旨連絡があり、帰宅する。部屋の掃除や洗濯などをして、奥さんと和菓子屋のカキ氷を食べに再び外出する。
和菓子屋に到着すると、外まで行列が並んでいる。日射しを遮るものがない。炎天下の中、汗を流し、苦悶の表情で列に並ぶ人々。こんな地獄に飛び込む勇気はない。近くのカフェで時間を潰す。ウィラ・キャザーの『大司教に死来る』の続きを少し読んで、昨日の日記を書く。しばらく時間を置いて、再び和菓子屋。店外の行列はさっぱり消えている。宇治金時のカキ氷を食べるが、氷が冷たすぎて頭が痛くなる。寒気もする。身体に震えが走る。
外に出ると、ぬるい暑気が冷えた身体に心地良い。帰宅後は何もする気が起きない。風呂に入って、20時前に就寝。