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日記

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2019年12月の記事一覧

LINEのビデオ通話

LINEのビデオ通話で高校の同級生6人と忘年会をする。 当時、高校の近所にラーメン屋があった。ラーメン一杯290円という破格の値段設定で、私たちは毎週のように通った。私があの店まだあるのかなと呟くと、誰もその店のことを憶えていない。 同級生の一人は、高校2年のとき生徒会役員に立候補し、全校朝礼の場で選挙演説を行った。彼は、約500人の生徒が見守る中、ほふく前進で登壇した。受けを狙ったようである。他人事ではあるが、あのときの会場の静けさを思い出すだけで、今でも鳥肌が立つ。

このような世界があったのかと

人間と馬の関係は約2000年の歴史がある。馬はまず、人間たちが生きるための道具であっただろう。しかし彼らの存在はあまりに気高く、美しい。 馬に約一トンのソリをひかせる北海道帯広の「ばんえい競馬」、馬の飼育/転売で生計を立てる「馬喰(ばくろう)」、馬と共に山へ入り、伐採された丸太を運ぶ「馬搬(ばはん)」、馬頭観音や「オシラサマ」などの信仰。 映画「馬ありて」は、現代まで連綿と続く、日本人と馬の関係に焦点をあてたドキュメンタリーである。 今年、最も印象に残る映画だった。

こうして腹いっぱい肉食えて幸せだけどな

「おれ、こんな大学生活だとは思わなかった。」 「どんな大学生活をイメージしてた?」 「(しばし無言のあと)そりゃ、彼女とごはん食べに行ったりとか......」 「おれは、こうして腹いっぱい肉食えて幸せだけどな。」 昼下がりのとんかつ屋。隣の席の学生たちの会話。無性に彼らにごちそうしたくなった。しなかったけれど。

ただそれだけでは足りない

街の風景を撮影した写真をもとに、その周囲に広がっていたかのような架空の風景を描き足す。城田圭介の写真を利用した絵画作品は、フレームの外にも世界が広がっていることを思い出させる。当たり前の事実ではあるが、鑑賞者の盲点でもある。 A Passage / "A Sense of Distance"シリーズより 城田圭介,2014(茅ヶ崎市美術館にて撮影) 額縁やフレームの中で作品世界が完結すると誰が決めたのか。外側の世界を想像する楽しみがあったっていい。絵画や写真を鑑賞するとき

蜜柑

私をはじめから惹きつけたのは、物のもつ形、そしてその人を寄せ付けぬような自己完結性でした。階段の手すりのゆるやかな曲線、石門のアーチの刳り型、枯れ草の茎の精妙無比なからみあい。 W・G・ゼーバルト (著), 鈴木 仁子 (翻訳),『アウステルリッツ』白水社,p.75 廃墟のような団地の庭に、蜜柑の木がある。枝にぶらさがる実は大ぶりで、表皮に雨露がしたたり、落ちる。橙色は灰空の下に際立ち、通行人はよく足を止めた。 ”氷結"の缶ラベルの写真のような蜜柑だ。そう言うと、同僚三

若者も老人も弱者も強者も

真冬の夜、凍結した湖の上でスケートをする。月の光が照らすリンク。冷たくなる頬。シャ!と滑る音。こどもたちは大はしゃぎ。そんな記憶が蘇る絵。スケートなんて本当は一度もしたことがない。なくても。 Skating by Moonlight Ronald George Lampitt (1906-1988) 鼻歌を口ずさむ。メロディは、鐘のキャロルだった。クリスマスソングでは一番のお気に入り。映画『聖なる鹿殺し』の唱歌シーンが素晴らしい。厳かで、不穏な気持ちになる。聖なるものはお

何かの悪夢のように

人気のない商店街を歩いていたら、香ばしい匂いがした。道端にドラム缶があり、その口からもくもく煙が出ている。チキンだ。吐血のように真黒なこのドラム缶で、誰かがチキンを焼いている。煙が目にしみる。振り向くと誰もいない。 「あたし、本当にみじめ」 以前一度起きたことを、もう一度繰り返しているような気がぼくはした。「ついさっきまでは、楽しんでいたじゃないか」 何かの悪夢のように、すべてが繰り返されているような気がした。一度体験したことを、もう一度体験しなければならないような、そん

椅子取りゲーム

年の瀬になると、酒席が増える。酒飲みの失敗事例を耳にする機会も増える。駅のポスターが「お酒の失敗じゃない。あなたの失敗です。」と訴え始める。 仕事の付き合いで飲酒する。酔態を晒し、取引先や職場の信頼を失うリスクがある。見返りはあるのか。そのリスクに見合うだけの。職場における飲酒の起源について最近調べている。 ある同僚が、自分の国では職場の仲間や取引先と一緒に飲酒する習慣はなかったという。その国では会食中、飲酒の代わりに”musical chairs” をするらしい。椅子取

あの人は誰ひとり不幸にできなかったわ

「愛は人を不幸にする」と母は言っていた。「愛のせいで人は枕を濡らして泣きながら寝たり、涙で電話ボックスのガラスを曇らせたり、泣き声につられたて犬が遠吠えしたり、タバコをたてつづけに2箱吸ったりするのよ」 「パパもママを不幸にしたの?」わたしは母に訊いた。 「パパ? あの人は誰ひとり不幸にできなかったわ」 ルシア・ベルリン (著), 岸本佐知子 (翻訳),『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』講談社,p.203 奥さんが、見知らぬ部屋で見知らぬ人々と鬼ごっこをす