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何かの悪夢のように
人気のない商店街を歩いていたら、香ばしい匂いがした。道端にドラム缶があり、その口からもくもく煙が出ている。チキンだ。吐血のように真黒なこのドラム缶で、誰かがチキンを焼いている。煙が目にしみる。振り向くと誰もいない。
「あたし、本当にみじめ」
以前一度起きたことを、もう一度繰り返しているような気がぼくはした。「ついさっきまでは、楽しんでいたじゃないか」
何かの悪夢のように、すべてが繰り返されているような気がした。一度体験したことを、もう一度体験しなければならないような、そんな感じだった。
アーネスト・ヘミングウェイ(著),高見 浩 (翻訳),『日はまた昇る』,新潮文庫,p.125