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LINEのビデオ通話
LINEのビデオ通話で高校の同級生6人と忘年会をする。
当時、高校の近所にラーメン屋があった。ラーメン一杯290円という破格の値段設定で、私たちは毎週のように通った。私があの店まだあるのかなと呟くと、誰もその店のことを憶えていない。
同級生の一人は、高校2年のとき生徒会役員に立候補し、全校朝礼の場で選挙演説を行った。彼は、約500人の生徒が見守る中、ほふく前進で登壇した。受けを狙ったようである。他人事ではあるが、あのときの会場の静けさを思い出すだけで、今でも鳥肌が立つ。
そんな思い出話を私が披露すると、誰も選挙のことを憶えていない。立候補した当人さえ。「職員室のコピー機を生徒も自由に使えるようにする」という公約を壇上でアピールしてたよ、と演説のディティールまで補足したが、それでも思い出してもらえなかった。
別の同級生は、高校1年のとき初めて彼女ができた。彼女はデートする度、いちごやブルーベリー等の手作りのジャムを瓶入りで彼にプレゼントしてくれたという。
彼が初めて彼女の部屋に行った日。成り行きでキッチンにある大きな冷蔵庫の扉を開けると、おびただしい数の瓶入りジャムだけがびっしり詰まっていたらしい。異様な光景に、彼は腰が抜けるとはどういうことか、自らの腰で思い知ったという。私はトーストにジャムを塗るたびに、このエピソードを思い出す。
そんなことあったよね、と当人に同意を求めると、彼はそんな女性と交際した記憶が無いと言う。仲間内でも話題になったはずだが、他の同級生もそのようなエピソードは憶えていないと言う。
夢か幻だろうか。私の記憶は。あるいは、ビデオ通話の画面に映る彼らの姿が。
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奥さんがFrosh(フロッシュ)の洗剤セットを通販で購入したら、おまけで「フロッケ人形」も届いた。このカエルのとぼけた表情をぜひご覧いただきたい。
カエルの癖になぜかステテコを履いている。この微妙に人をいらつかせる感じ、大変愛らしい。人形のポージングを色々と考案しては、二人でげらげら笑う。
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武田百合子「富士日記」やメイ・サートン「独り居の日記」など、いわゆる日記文学と呼ばれる作品を並行して読んでいる。他人様の日記は面白い。商品価値のある日記は格別に。読み通すのが大変だが。
私も自分の中に虚栄心を少なからずみつける。しかし私はそれが私の心のすべてだとはけっして思わない。それよりも大きな望み、それは愛されたいと思う心だ。愛されたいと思うことが虚栄なのではなくて、愛されたいと思うことの結果として虚栄心がおこるのだとこそ私は思う。
笠原 嘉 (編集),『ユキの日記―病める少女の20年』,みすず書房,p.81
最近気になっているのは、山田風太郎の「戦中派敗戦日記」。あるいは、小川洋子「原稿零枚日記」のような嘘と出鱈目ばかりの日記も大変面白く読んだので、似たような架空日記モノがないか探している。