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空想が繋ぐもの(君たちはどう生きるか)

 スタジオジブリ最新作『君たちはどう生きるか』を見た。エンドロールを見たとき、ここ最近で私が体験してきた事柄のひとつひとつが、線となる感覚に鳥肌がたった。遡ること2023年6月、私は「米津玄師2023TOUR 空想」に参戦した。ライブのMC中、米津さんは自分が幼い時によく空想をしていたこと、曲を作る時は物語を空想をしてから作ることをおっしゃられていた。その時は音楽だけでなく、漫画やイラスト、動画まで作ってしまう想像力豊かな米津さんらしい言葉だなあなんて思って聞いていた。ファイナルファンタジーの主題歌の依頼もあったことから、今回のツアータイトルがつけられたんだろう、そう思っていた。
しかしながら、映画を見て気がつく。米津さんが宮﨑さんの空想に触れたという経験も、きっとこのツアータイトルにつながっている。もちろん本当のことは米津さんにしかわからない。だからそうでないかもしれないけれど、そうでなかったとしたらそれはそれですごい偶然であり、運命的であると思う。そして、まさしくこの映画は空想の下にあり、それ抜きには語れないからだ。


 ここからはネタバレになるので、映画を見ていない方はぜひ見てから読んで欲しい。


 主人公眞人とキリコ、アオサギは塔の中で下の世界(以降、下の世界と仮に呼ぼう)へ飛ばされてしまう。下の世界は死者も生者も時間も交差する世界。そしてその世界を作るのは大おじさん。世界は白い積み木のバランスで均衡が保たれている。この辺りの解釈はかなり別れるところだと思うが、この下の世界こそジブリ作品に代表される宮﨑さんの空想の世界、大おじさんは今の宮﨑さん自身のようにも見える。白い積み木はこれまでの仕事で大事にしてきた誠実さや信念、こだわりとも言えるものたちだろうか。墓石のようにも見え、純粋な悪意のない石でもある。大おじさんは眞人に、これを墓石と言えるから君に継がせたいと言った。これまでのアニメ制作の常識を墓石のようだと言える人間が新しい世界を革命していけるのかもしれない、と考えているようにも考えられる。大おじさんは眞人に世界の創造主を継がせたいと考えたが、眞人は自分の現実へ帰ると言った(この時、シン・エヴァンゲリオンがよぎったりもしたが、ニュアンスが違ったようだ)。物語のラストでは積み上げてきた白い積み木は崩れ、世界は均衡を保てなくなり、積み木は失くなってしまう。そして下の世界へのゲートとなる塔は崩れていく。これまで空想してきた世界、培ってきたアニメ制作に対する信念、美しいと信じて疑わなかったものたちが崩れなくなっていくように。登場人物たちは現実の世界に帰り、アオサギは何故、眞人が下の世界について覚えているのか尋ね、すぐに忘れるさと言う。空想の世界はすぐに忘れられるくらいふわっとしたところにあり、現実の世界に入り込める隙間はあまりないようにも捉えれる。特にここ数年間、コロナ禍では芸術やエンターテイメントは不要なものとレッテルを貼られた。だが、少しでも、下の世界から持ってきた瓦礫とお守りくらい僅かなものだとしても、確かにそこに存在していなければ、眞人やナツコのような現実に行き場を失った人たちはどこにも逃げられなくなってしまう。
 ここで米津玄師の話に戻る。米津さんはアンビリーバーズなどの歌詞でもお馴染みだが、ここではないどこか、空想の世界へ逃れることが自身にとって救いの一つだったことを過去に何度か発言している。さらに、前述した通り曲を作る時は空想することから始めている。生きる上で、それほどまでに空想が切り離せない米津さんが、空想が重要となってくる本作の主題歌をやることは必然だった思える。こんなにも空想することが身近にあり、救いと感じ、大切であり、小さな頃からジブリ作品に大きな影響を受けてきた米津玄師以外が主題歌をやることなど考えられない。7.1、7.2のライブでは「地球儀」も歌ったという米津玄師2023TOURのタイトルが「空想」であったこと、宣伝をしないと言いながら人気アーティストである米津玄師を抜擢した理由、それら全てがエンドロールを見る頃には全て納得がいった。何より主題歌を聞いて、歌詞を知って、本当に期待以上にこの映画に相応しい曲になっていた。
 80歳を超える偉大な作家は自らのこれまでの空想を破壊した。これは集大成であり、次の作家にバトンを渡す作業にもみえるが、ここからまた新たな作家人生が始まるようにも見える。米津さんは宮﨑さんから受け取ったものを返すようにこの曲を作った。またその作風にはジブリの影響も大きく受けている。映画館にはまだ幼い子供達も見にきている。子供達はこの瓦解していく空想を見て、新たな空想を生む。たった1人から生まれた空想が、それを受け取った人たちに豊かな空想の世界をもたらしていく瞬間。エンドロールを見ながら美しいと感じた。

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