放浪旅あいまい記憶日記 その6
<<< 仏の鎮座するタオの島 >>>
大きな仏様が、岬の突端に鎮座しているのだ。
結構な距離があり少し霞んでみえる。
憧れの島に着いたのに、目の前で起こっている出来事に困惑していた俺は、あまりの衝撃に、まだ周りをよく見ていなかった。リンダに言われて後ろを振り返って見た光景は、生涯忘れることのできない美しさだった。
岬の突端にある『男岩・女岩』が浜のこちら側から見ると
大きな仏様が座禅を組み鎮座しているように見えるのだ。
仏教徒ではなくても思わず手を合わせてしまうほど神々しい。
この浜のタイ語の正式名称があるが、みんな『ビッグブッダ・ビーチ』と呼んでいる。
この湾の岬のブッダの反対側に、一件だけレストランがある。バンガローを5棟ぐらい持っていて、タラポーンという女主人がやっている。長い船旅から解放され、とても他に行く気はしなくて、とにかく、ここにステイすることにした。
タラポーンは痩せていて気っ風がいい。年の頃は30くらいで、なんとなくポパイに出てくるオリーブみたいだ。
この島で俺の人生を左右する出来事が何度もおこるとは、この時は全く想像できなかった。
タラポーン バンガローにステイしてるのは、先ほど熱烈に迎え出てくれたターザンみたいな大柄の女リンダと、頭おかしくなっちゃたマイクの、スキンヘッドカップル。彼らはベルリンから来た。
大柄女とか書いたけど、リンダはスタイルもいいし顔も綺麗で出るとこ出たら、モデルとしてやっていけそうなぐらい。しかもすげーいい奴。マイクは白人では珍しく俺より背が低い、最初は無視されてたけど話すと普通に会話できた。
リンダとマイクは別れたばっかりらしい。まあそれもあって、ちょっと頭がいかれちゃった感じだ。そしてフランス人のジョン、計3人の旅人がここにいた。そして俺を含めて3人が新たにバンガローにステイすることになった。
バンガローの前の平たくて大きな岩の上に座って夕焼けに照らされて朱色に染まった岩の仏様を眺めながらカリンバを弾くのが日課となった。
この島には自動車もバイクもない。人々は歩くか馬か漁船で移動していた。1時間も歩けば島の反対側のメインの港町まで行けた。ここには一軒の雑貨屋と2軒の食堂があるだけの島で唯一のタウンだった。
タオ島には全部で1年近く滞在した。マレーシアやネパールに行き、何度かビザを更新しては戻ってきた。そのぐらいお気に入りの場所だったのだが、何度目かの島の滞在中に、この頃になると、一応レストランには焼き飯とか色々と旅行者向けのメニューがあるのだが、タラポーンのお母さんが作る地元のカレーを食っていた。そっちのが辛いけど断然うまい。いくら?と値段を聞くと自分で考えろと言われたので、適当に値段をつけてノートに記入していた。もちろん水は現地人と同じように雨水を飲んでいた(ボトルの水は有料だけど、雨水は無料)
ここまでくるような旅行者は筋金入りの長期旅行者だ。まずボトルに入った水など買って飲まない。地元民と同じように瓶にためた雨水を飲むのだ。
しかし雨季の時期にこの島に雨が降らなかった。まるで雨雲はこの島だけ避けているように、海上では雨が降っているのが見えるが、この島に降らないのだ。 流石に俺も水不足になってきたのはわかるので、ボトルの水を飲むようにした。 雨水に比べると不味くて高いが仕方がない。ジョンはおかまいなしに雨水飲んでいたら、「雨水も料金取るぞ!ボトルの水飲め」とタラポーンに怒られていた。
「オーケー。オーケー!」と言って、俺に向かって舌を出すジョンはフランス人ぽく、ちょっとエレガントだがいい奴だ。よくインドの話をしてくれた。
ある日散歩していると木の筒を見つけた。これは地元民が蜂蜜ように使用する、蜂の巣箱として利用していたもので、直径25cm、長さ50cm、シロアリが中を開けた木の筒だ。「おー。こりゃウッドドラムだな」と思い、木のスティクで叩くとすごくいい音が出た。これを拾って担いでレストランに行き みんなに声をかけた。
「見ろ!いいもん見つけた・これでみんなで雨乞いやろう!」木の筒担いで、適当な棒切れ2本持った俺が言うと
「それ叩くのか?雨乞い?HAHAHA!」笑われた。
「その筒で本当に雨がふらせられるのか」そマイク
「おー。本気でみんなで祈れば、降るって!」と答えると
「俺たち見てるから、お前やれ!」と言われ
「よし見てろ」と言い
浜までみんなで出て行く。俺一人がさらに浜の真ん中へ行き、座って木の筒を置き、精神を集中して曇った空を見上げる。
すると雨の匂いを感じるのだ。
あの子供の頃、夕立の前にした雨の匂いとおんなじだ。
しばらく雨の匂いと、空の気を全身で浴びていると、そこにゆっくりと同調して行くのがわかる。
同時に、自分の中の隠れていた自然の感覚が呼び起こされて行くのだ。
顔を上げ天を仰いだまま、ゆっくりとスティックを持った両腕を上げてゆく
そしてその永遠なのか瞬間なのかもわからぬほどの長さの間を
全身全霊で天と同期していると
微妙(ミミョウ)な空気の流れた瞬間に、頬に一粒の雨を感じ
両手を振り下ろし勢いよく木筒を叩き出す
ダンダッダッ ダンダン
と同時に
ドバー!!!バシャー!!!!!
雨が勢いよく降り出した。
「やったー!すげー!」と観客からは歓声が上がり
俺は大雨の中ウッドドラムを叩きまくった。雨が小降りになるとリズムを弱く叩き
強く叩きだすと、雨も強くなる。
それは自然と完全にシンクロした瞬間だった。
もう気持ちがいいのは言うまでもない。
ー つづく
次回は仏様の頭から綺麗な虹が出るお話です。
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読んでくれてあれがとう!!おヒマな時に続きも読んでね!
幸あれ!!!
ー「喜捨」の意味は功徳を積むため、金銭や物品を寺社や困っている人に差し出すこと。ー あなたの喜捨に感謝いたします。