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いじわるをやめた日

残り10

私は物事を斜めから見てはチクリと刺すのが得意だった。

いわゆる皮肉。

そんな私を「毒舌で面白い」と思ってくれる人が周りに集まった。


「皮肉」を辞書で調べたら「意地悪」と書いてあった。


あぁ、そうだ。私は意地悪だった。





私は「皮肉」を母から教えてもらった。

母の操る言葉は、物事を正面から捉えるのではなく、少し斜めから間接的に風刺するような言葉で、それは幼い私にとって最高におしゃれで面白い言い回しだった。

そして何より、皮肉や悪口を言うと母が喜んだ。

普段は冷たい能面のような表情の母が、私の悪口に困ったように、でも嬉しそうに笑うのだった。


学校で起きた出来事を母に話す時も、楽しいことや嬉しいことを報告しても母は喜ばなかった。
「ふうん」と言ってそっぽを向いてしまう。
私は一生懸命、嫌なこと、悪いことを探して報告した。そうすると母はよく聞いてくれた。寄り添ってくれることはなくとも、私に興味を持ってくれた。私はそれが嬉しかった。


私は母のために一生懸命に悪口を言った。
主に父親の悪口を言った。
母が言えない言葉を私が代わりに言ってあげていたのだと思う。

私は母を守りたかった。母が可哀想だと思っていた。悪口を言って反抗する私は父親から嫌われ、母親からも「言い過ぎ」だとか「正直すぎる」などと責められるようになった。


そうやって私は意地悪な人間になった。

物事の悪い面ばかりを見て皮肉や悪口を言う人間になった。



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