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氷の女王を騙すのは容易い。オカルトヒーラーの手口
ものすごく辛い経験をした時、その苦しみをそっくりそのまま誰かに理解してもらうのは難しい。人間の感情は普遍的なものであって、その特殊と思える苦しみさえも実は人類共通の感情だったりするのだけど、大きな悲しみの渦に巻き込まれて悲劇のヒロインになってしまっている時に、その痛烈すぎる孤独は不幸にも自分だけが味わっている特別な感情で、そんじょそこらの大して苦労もしていなさそうな人間に理解できるわけがないと思ってしまう。そうやって孤高の女王になって一人で凍りついたお城に籠城する。
そんな悲劇の女王になっている時に、その痛みを理解してくれて、凍えた身体を抱きしめて温かなスープを差し出してくれる人に出会ってしまったら?
人は簡単に騙される。
それは本当に辛かったね。悲しかったね。寂しかったね。でもその苦しみを経験したあなたには使命があるんだよ。それは苦しみに見えて実はギフトなんだ。あなたは特別な人間なんだよ。これは誰にでも起こることじゃない。あなたは選ばれたんだ。
といって飢えて凍えた心に共感という温かなスープを注ぎ込む。孤独に打ちひしがれていた氷の女王は簡単にその人間を信用してしまう。
ようやくわたしの苦しみを理解してくれる人が現れた。わたしの特殊性、わたしの使命、わたしのこの壮大で悲壮で甘美な運命を理解してくれる人が。ようやくわたしはこのブラックホールみたいな孤独から抜け出せるのだ。この日をどれだけ待ち侘びたことか!
その人は言う。
よくがんばって生きてきたね。もうぼくに会えたから大丈夫だよ。この講座を受ければあなたはその苦しみを人を癒す力に変えていける。
そう言って高額なお金を請求することもできる。
そんなふうにがんばって生きてきたあなたのことを愛おしく感じるよ。よく生きてくれたね、ありがとう。
そうやって凍りついた自尊心に甘い言葉をささやき、共感を装って境界線を侵入していくことで肉体関係を迫ることだってできる。
傷付いた人を騙すことは、赤子の手を捻るよりも簡単なことなのだ。
「孤独を理解してくれる人に出会いたい」というわたしの渇望を利用して、オカルトヒーラーはいとも容易くわたしをコントロールした。
境界線が弱くて心に穴が空いている人間はこんなにも簡単にコントロールされるんだ。
そのやり方をオカルトヒーラーは「恋」と呼び、わたしは「コントロール」だと認識した。
今回だけじゃない。わたしはずっとそんな場所で生きてきたんだ。相手のポッカリ空いた穴を埋めることで必要とされる人間関係。穴に入ったり入られたりしてきた。もうそんな対等じゃない関係はまっぴらだ。侵入したり侵入されたり、気持ち悪い。自分の被害も加害も認めて、もうその場所から抜け出す。二度とこの場所には戻りたくないから。
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