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なぜ多くの起業家は途中で挫折、もしくは失敗してしまうのでしょうか?

35歳の時にサラリーマンから突然起業し、今年で16年目になります。その経験からいくつか私感を申し上げたいと思います。

最近若い方から起業についてのアドバイスを求められます。多くの方がメディアなどから影響を受け(ほんの一握りの派手な若社長などから)イメージを重視、自分のアイディアを売って(認めてもらって)ファンド会社から資金を集め、渋谷は高すぎるので五反田や恵比寿辺りのガラス張りのビルもしくはデザイナーズオフィスを借りて、創造性を大切にするためにお揃いのTシャツを着ながら仕事をして(談)、なんて感じでキラキラさせながら話をしてくれます。(またその中で多くの方が、現在働いている会社内での不満<自分を認めてくれない>を抱いているように思えてしまうことはちょっと気になるところです。)

では実際、脱サラして起業をするとどうなるのでしょうか。もちろん業種にもよりますが、現実的・物理的な面でざっとですがアドバイスをしたいと思います。

<実際にかかる費用>

◉登記費用などの初期費用。

◉オフィス:オフィスビルは初期費用が非常に高く審査が厳しいです。そして初期費用が低めのマンションは、法人登記が認められていない物件が殆ど。もし自分の住むマンションでと思っても、法人登記が禁止されていたらどうすることもできません。たとえ五反田や恵比寿の奥の方で家賃13万円のアパートオフィスが見つかったとしても、初期費用は100万円弱になります。また共益費、鍵の交換代、火災保険、不動産会社へ支払う費用など、その他いろいろな費用がかかります。さらに法人だと家賃に消費税がプラスされます。あと多くの方が知らないのですが、オフィスビルですとゴミを捨てるだけでお金がかかります。また話題のシェアオフィスにもマイナスな点は沢山あります。何より会社の私物は沢山置けないし、フリーデスク制だと自分の会社という感じが薄れます。キラキラした雰囲気とは反比例して、そもそもの自由度は減ってしまうのです。

◉固定電話、スマホ、オフィスのWifi代、モバイルWifi、自社サイト維持費(メール・サーバー・ドメインなど含む)、プロバイダー、サイト制作(もしくはソフト)、セキュリティ、電気ガス水道といった光熱費など。(サイトで商売をしている人なら決済代、毎月のサービス費用などもかかります。)

◉法人ですと自分で決算をすることが中々難しいので、税理士にお願いすることになると思います。人にもよりますが、大体月4万円前後、決算時にはその他別途経費や費用がかかります。

◉たとえコピー印刷機を家庭用で済ませたとしても、毎月のインク代は馬鹿になりません。その場合、きちんとした印刷やA3の印刷をする際はキンコーズなどに行くことになるかと思いますが、それも結構な費用です。その他名刺印刷などの印刷関連経費は中々目に見えませんが、かなりのコストとなります。

◉自分自身の生活費:当初の給与は20万と設定しても、源泉を事前に払うことになるためその費用、そして都民税(県民税)、区民税(市民税)、社会保険費用などとどんどん上乗せされていきます。もし人を雇ったら、雇用保険やら交通費などもあり、費用は自分自身よりぐっと高くつきます。業種にもよりますが、PCも提供しないといけません。

◉交通費:どこに行くにもお金がかかるということを忘れている人が多いようです。サラリーパーソンですと、毎月の経費処理で会社からお金が支払われますが、自分で起業したら、全部自分で払わないとなりません。経費は控除できるからと簡単におっしゃる方がいますが、実質的な利益がないと(実際にお金が振り込まれないと)経費を支払うことができません。(→ここ重要です!)

◉その他、印紙、文房具、宅配便、郵便代、コーヒー代、オフィスの備品などなど、どんどんお金は消えていきます。何をするにもお金がかかります。何事もただではやってくれません。業種によっては、サンプル品の購買、ラベル作成、商品の発注など、独自の費用も発生しますね。会議費という名目で人と飲食をしていたら、その費用もバカになりません。

◉当初は収益がなく赤字だったとしても、もしくは資本金が少ない企業だったとしても、都道府県税(約7万円)は絶対にかかります。

会社を辞めて、実際にいきなりこれらの費用を毎月払って維持いくことは、かなり大変なことです。しかも同時に仕事以外の生活の部分もやっていかなければなりません。家族がいれば、エンゲル係数はさらにぐっと上がります。それでキャッシュフローが足りなくなり、二進も三進もいかなくなって夢や希望だけでは仕事が成り立たなくなり、結局は会社をクローズしてしまう、ということになってしまうのだと察します。

また勤めていた会社から仕事をもらうんだ、なんて意気揚々に話す方もいますが、会社員時代の人たちとの繋がりはよっぽどのことがない限り、実際の仕事には影響していかないことも理解しないとなりません。そして資金の注入としてファンド会社も、銀行も国庫もいいですが、結局は借りたお金、おまけをつけて返していかなければなりませんし、銀行や国庫に行っても決算書で判断される傾向があることも忘れてはいけません。

新しい価値や夢を抱き、それに向かって邁進していくことは本当に素晴らしいことですが、こういう現実があることも忘れてはいけないと思います。さらに、夜は異業種の方と出会うために夜な夜なパーティーへ、などというメディアのイメージに酔ってしまってはいけません。上記項目維持のための手続きや事務作業は膨大です。会社員ですと、人事、総務、経理、IT、発送伝票の記載などまでバックオフィスの人たちが細かく手助けしてくれますが、起業をしたらそれらを全部やるのは起業をした本人のみか、その本人がお金を払って雇った人のみです。(そしてそれもかなりの人件費となってしまいます。)この時点で、どうして自分は会社員を辞めてしまったんだと後悔する人も多いと思います。

逆に言えば、このような現実も理解しながらも、辛くても、孤独でも、信頼していた人と別れてしまっても、「粘りつよく孤軍奮闘していく」のであれば、今まで出会うこともなかった新しい人たちも自然な形で加わり、会社はなんとか「ジワジワ」と動いていきます。自分自身より会社自身へと変化していき、チームや関わる多くのステークホルダーの方達との不思議な相互作用によって少しずつパワーアップしていきます。

(これだけは論理的に言うことはできないのですが、本当にそういう不思議な好転反応があるし、実際に波に乗る感覚のようなものが起こるのです。)

こんな偉そうに述べていますが、自分も16年前は本当に未熟で、サラリーマン的思考で立ち往生、揉まれながら学んでいきました。

起業は新しい活力の源ですので、若い方にも、上記の事項をうまく対処させながらどんどん挑戦していってほしいなと思います。ここで述べたような苦労を覆すような本当に素晴らしいことや出会いが沢山あることを締めの言葉にしたいと思います。

お読みいただきありがとうございました。この記事に関連した書籍を株式会社秀和システムさまより出版しております。もしご興味がありましたら、ぜひご参考になさってくださいませ。


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