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殴った心、殴られた心

どうも、ゴリ松千代です。


私は傲慢だった。こと格闘ゲームに関しては、敗北を知らなかった故に増長していた。やれ県◯位だの、全国◯位だの、そんな事ばかり自慢していたケツの青いクソ野郎だったのだ。

家でネット対戦出来る環境なんて99%の人は整っておらず、ネットワーク社会を想像も出来なかったような昔の話。私は毎日のように当時の『あの』薄暗い雰囲気のゲームセンターへ赴き、勉学を捨て去って培った自分の『格ゲー』の力を誇示していた。試合中の挑発はもちろんの事、奇行を繰り返した後のKO、KO後の無駄極まりない追撃、ゲーム内でやれる煽りは全てやった。試合後に筐体の向こうからウザいだのキモいだの言われる事はあったが、敗北者の断末魔は耳に心地良かった。全て、あの日が来るまでの話だ。

私は友人と一緒にゲームセンターに行く事が多かったが、その日は室内でそれぞれ気の向くままの個別行動だった。一人はメダルゲーム、一人は音ゲー、そんなところだったろうか。そんな中私はと言うとやはり格闘ゲームコーナーで筐体に一人座り込み、ひたすらに乱入者を迎撃していた。

10WIN、という字が画面左上に踊るのももう間も無くといった矢先、また私の悪い癖で強引なケズり勝ち(チープフィニッシュ)をしてしまった所で事件は起こる。ドン、というとても大きく低い音と同時に筐体が激しく揺れ、画面は地に撒かれたガソリンのような色で歪み、不快な電子音を延々と出し続けて止まっている。一瞬何が起こったのか分からなかった。私はゲームの中という仮想世界にいたのに、半ば強制的に現実世界に引き戻されたのだから。静まり返るゲームセンターと私。後で聞いた話によると、対戦相手が筐体を蹴ったらしい。そうだ、散々煽った相手は血の通った人間だったのだ……。

体をこわばらせ身構えたが、結論から言うと想像するような大事には至らなかった。対戦相手はすぐに何処かへ行ってしまったので、私が怪我をするという事は無かった。駆けつけた店員さんや隣の筐体でプレイしていたお客さんが、呆然と座り尽くす私に声をかけてくれる。合流した友人も状況を察し、この日はお開きとなった。この出来事が、私の『対人ゲーム人生』全てに影響していく事になる。

知り合いと家でゲームする分には全く問題ない。しかしゲームセンターで見知らぬ人に乱入されようものなら唇や手の震えが止まらなくなる。私がやっていた煽りは全て無くなった。勝利後の喜びも消えた。画面中央に『K.O.』が表示されると、私は現実世界という『こちら側』の心配をしていた。結局私はこのトラウマを克服する事が出来ず、ゲームセンターから足を遠ざけていく。

しかし問題は意外にも根深く、忘れた頃にやってきた。本当につい先日の事、私は友人と通話しながらとある『バトルロワイヤル(バトロワ)系TPS』に興じた。100人が参加し最後まで勝ち抜いていくアレだ。今回プレイしたこれに関してはプレイヤーの年齢層が低く(某雑誌調べ)、一桁台の順位に食い込める事が比較的多い。別な友人に誘われてやる事の多かった他のバトロワ系の低順位で疲弊した私(いや、私が純粋にガンシューティングが苦手というのもあるが)にとってこのゲームは癒しにもなり得た。ただただ純粋に楽しい事が嬉しかった。

珍しく2時間程プレイした頃だろうか、私は震えている事に気がついた。気のせいだと思いたかったが、微かな確信はあった。これが『見知らぬ人との対人戦』だという事を改めて意識してしまったからだ。徐々に照準もままならなくなり、ゲームの中へ入り込んでいた私の足がすくむ。敵チームに遭遇すると、もはや逃げ出すか物陰に隠れるかという消極的な行動しか取れなくなっていた。私が他のバトロワ系で疲弊していたのは順位が低かったからではなく、見知らぬ相手と戦っていたからだったのだ。争う事からひたすら逃げ続けていた私の胆力は、知り合いの小学生なんかよりずっとずっと弱くなっていた。

その後、通話を切りゲームを終わらせても震えが止まらない。呼吸は浅くなり、頭痛がおさまらない。胃液を感じる程の吐き気がして、何より怠さが体から抜けない。『悲しい』と同じ感情が脳を支配し続けたが、これに関しては理由すら良く分からない。私はその夜早く寝る事にしたが、深夜何かにうなされ家族に起こされた。その後は全く寝付けず、気付けば外は明るくなっていた。結局翌日の夕方まで体調不良は続いた。間違いなく、寸分の狂いもない『自業自得』だ。そんな記事を書く今の私の指も小刻みに震えているのが分かる。

私は散々人の心を殴ってきた結果、自分の生み出した幻に殴られ続けている。もうあの頃のような実力や精神力は無い。今も私のモニターの奥では、聞こえないはずの『あの音』が聞こえる。

わたしは常に
心の平穏』を願って生きてる人間ということを説明しているのだよ……
勝ち負け』にこだわったり 頭をかかえるような『トラブル』とか
夜もねむれないといった『』をつくらない……というのが
私の社会に対する姿勢であり それが自分の幸福だということを知っている……

引用元:ジョジョの奇妙な冒険 第4部 / 吉良吉影

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