K ビフォア・ゼロ 第1話「紫電一閃」
著:古橋秀之
先行部隊は壊滅の危機に瀕していた。
異能者案件に対して緊急出動した《セプター4》機動課部隊が、敵に圧倒され、多数の死傷者を出し、守勢を余儀なくされているのだ。
現場からの報告を受け急行する人員輸送車には、《セプター4》副長・塩津元と、後詰めの増援部隊が搭乗している。
「相手は何人だ、塩津」
増援部隊のひとり、善条剛毅が、後部座席から助手席に問うた。
通信機から状況報告を受けながら、塩津は簡潔に答える。
「一名。柊だ」
「奴か。ならば頭数の問題ではないな。手強い相手だ」
善条は、異能制御サーベルの柄に体重を預けた。登録名は「霹靂」。特別仕立ての刃は長大で、厚く重い。並外れた体格と膂力がなければ扱えない代物だ。
「……面白い」
牙を剥く獣のように、善条が笑う。と――
「いいや、つまらん」
隣に座っていた隊員が、鼻を鳴らした。子供のように小柄だが、善条の巨躯に引くところはない。不遜な態度だ。
「おまえ、自分ひとりで片づけるつもりだろう。そうは行くか」
小さな手が、自らのサーベルの柄頭を叩いた。サーベルの名は「紫電」。その一刀もまた、善条の「霹靂」と同じ型に仕立てられた、特別製だった。
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4,750字
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