K SIDE:PURPLE 06
著:鈴木鈴
次の日。
紫は平然と空き地に現れ、長谷に稽古をつけてくれと頼んだ。
「………………」
「お願いします、先生」
重ねてそう言った紫に、長谷は頭をぽりぽりと掻いて、「ううむ」とうなることしかできなかった。
紫に腹を立てているわけではない。むしろ、自分のほうが紫の機嫌を損ねてしまったかと、反省していた矢先のことだった。なぜあそこまで強硬な態度を取ったのか、それはわからなかったが――長谷は、自分が鈍い人間であることを知っている。なにかしら、触れてはいけないものに触れてしまったのだろう。
長谷は腕を組んだ。
木刀を持って、紫はそこに佇んでいる。その表情がわずかに緊張しているのは、この少年でも、さすがに昨日のことを気にしているからだろう。かといって、謝罪も弁明もしない態度が、むしろ長谷には好ましく思えた。教えは乞うても、昨日の怒りを譲るつもりはない――そういうことなのだろう。
逆に言えば、その怒りを押してでも、この少年は自分から剣を学びたいと思っているのだ。
長谷は太く息を吐いて、木剣を手に紫と向かい合った。
「紫。以前、俺が言ったことを撤回するぞ」
紫はぱちくりと瞬きをする。剣を正眼に構えながら、長谷はにやりと笑う。
「自身の鍛錬の片手間に、などと言ったが、おまえの才の限りを見てみたくなった。三輪名神流の師範代として、これからはきっちりと手ほどきをしてやろう」
「――――!」
この少年の表情に、これほどの喜色が溢れるのを見たのは、初めてだった。
長谷はくすぐったいような気持ちと同時に、はるか遠くに置き去りにした悔恨を、久しぶりに思い出した。柄を握りしめることでその思いを振り切って、長谷は朗々と叫ぶ。
「よし。どこからでも、かかってこい!」
「……はい」
溢れる喜びを抑えようとするかのように、紫の答えは静かなものだった。しかし、その瞳に猛る炎は、昨日のそれとなんら変わるところがない。好奇と情熱。敗北やわだかまりなど、なんら紫の心を縛るものではないようだ。
しなやかな身体が迷いなく跳躍し、鋭い打ち込みを見舞ってくる。真正面からそれを受けながら、長谷はまぶしげに目を細めた。
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KFC/KFCNサルベージ
K Fan ClanおよびK Fan Clan Nextの小説等コンテンツを再掲したものです。
K~10th ANNIVERSARY PROJECT~
アニメK放映から十周年を記念して、今まで語られてこなかったグラウンドゼロの一部本編や、吠舞羅ラスベガス編、少し未来の話など様々なエピソード…
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