K ビフォア・ゼロ 第4話「《王》の眼、人の眼」
著:古橋秀之
善条、秋緒、吾妻、馬堂、千々岩、台場。
六名の達人の連携が、《煉獄舎》の密集陣形を易々と切り裂いていく。
彼らの主、《青の王》羽張迅によって〝鋸引き部隊〟と名づけられた六人編制部隊、その動きは、伝統的な合戦術とも、近代的な突入作戦とも異なる、独自のものだ。
各々の手に思い思いの得物を持ち、速度も間合いも突破力も異なる彼らは、右に左に、時には前後上下に、超人的な踏み込みや跳躍を交えながら直感的に体を入れ替え、隊列を組み替えつつ全速力で突進する。青く燦めく刃の群れが四次元の掘削機となって、巨大な異能戦闘集団を貫き解体していく。六人の剣鬼が嵐のように通り過ぎたあと、一拍遅れて、黒服の異能者たちが、熱と炎を帯びた血液をまき散らしながら四散した。
「なんて連中だ」
降り掛かる熱血の飛沫を避けながら、塩津は呟いた。
自らの同朋であり、先駆けでもある、六人組の〝チェンソー〟。
剣のひと振りごとにひとり、あるいは、二人、三人。怪物たる《煉獄舎》をなで切りにして駆け抜けていく彼らの姿は、怪物を狩り出し噛み殺す、さらなる怪物を思わせた。
「……なんて連中だ」
塩津はもう一度呟いた。
その言葉はまた、〝チェンソー〟の暴威を目の前にしてなお臆せず挑みかかる、《煉獄舎》のクランズマンたちに向けられたものでもあった。
全身の血液を《赤》の異能で加熱し、文字通り爆発的な膂力と破壊力を得る、燃える黒服の男たち。無論、そうした異能の使い方は、なによりも先に彼ら自身の身体を蝕み、破壊していく。彼らの多くはただ一度の戦闘で、周囲に甚大な被害をもたらし、そして死んでいくことになる。自らの命を省みることなく、ただひたすら瞬間の破壊に邁進する、黒衣の人間爆弾。精神的にも身体的にも、破壊的かつ常識外の、異形の存在だ。
敵も味方も、双方が怪物。その戦場に常人の立ち入る隙はなかった。
塩津は後続の突入部隊に指示を出した。青い怪物が食い散らかした赤い怪物の残骸の、後片付けだ。
床に倒れ、壁にもたれる瀕死の黒服たち、そのひとりひとりに、塩津と後続部隊の面々はとどめを刺していった。救命が可能な者もいたが、それは同時に、不意を打ってこちらの隊員を殺傷する力を残しているということでもある。通常の人間の感性を持たない彼らに対しては、こちらも機械的に処することが基本とされていた。
おそらく、現在の光景は、かつて地上で戦われた小規模戦闘のうちでも、もっとも凄惨なもののひとつだろう。とは言え《煉獄舎》を放置したならば、後の市井にはるかに甚大な被害をもたらすことになる。これは公に必要な行為だ。治安組織に所属する者として、塩津もその点は理解していた。
しかし同時に、現代人としての常識的な生命観、倫理観に照らし合わせるならば、この戦場における彼我の命は、余りにも軽い。
「はッはァ!」
突破されたドアの向こうから、秋緒の笑い声が聞こえてきた。塩津の常識に属することのない彼女は、この状況を、まるで遊戯のように捉えているのだろう。
秋緒だけではない。《赤の王》と《青の王》、《煉獄舎》と《セプター4》、この場にいる人員の多くは、この戦闘をある種のゲームのように考えている。生命の重さ、社会の重責に囚われることなく、スポーツ競技のように身軽に動かねば、足を絡め取られて死ぬだけだ。
塩津の足元で、動くものがあった。致命傷を負った《煉獄舎》の黒服が、最後の力を振り絞って拳に異能を集中していた。その拳が塩津の足に叩き込まれようとした時、塩津のサーベルが閃き、拳を斬り飛ばすと、返す刀で黒服の眉間を貫いた。
真っ赤に灼けた拳は、床に焦げ跡を残しながら数度跳ね、やがて、黒い塊となって燃え尽きた。
塩津は溜息をつくと、部下を引き連れ、六人組のあとを追った。
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KFC/KFCNサルベージ
K Fan ClanおよびK Fan Clan Nextの小説等コンテンツを再掲したものです。
K~10th ANNIVERSARY PROJECT~
アニメK放映から十周年を記念して、今まで語られてこなかったグラウンドゼロの一部本編や、吠舞羅ラスベガス編、少し未来の話など様々なエピソード…
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