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K ビフォア・ゼロ 第3話「煉獄の舎(やど)」

著:古橋秀之

 葬儀屋は監獄にいる。
 檻の中、社会と隔絶されている限りにおいては、その存在は許容される。
 だが、ともすれば彼らは、監獄を気ままに抜け出し、市井に破壊をまき散らす。
 鎖に繋ぎ得ぬならば、その場で獄死してもらわねばならない。
 次なる脱獄と破壊の前に。

         †

「葬儀屋」とは赤のクラン《煉獄舎》を指す符丁だ。喪服を思わせるブラックスーツを身に着けているため、彼ら赤のクランズマンは、《セプター4》の隊員たちに「葬儀屋」「葬式帰り」などと呼ばれている。
 また、同様の符丁において「監獄」と呼ばれているのは、《煉獄舎》属領〝豊沢区鹿梅かのめ拘置支所跡〟。元来、東京拘置所所管の副次的な刑事施設だったが、《赤の王》迦具都玄示の襲撃・占拠によって公的施設としての機能を失い、追って《非時院》により属領として承認されることとなった。
 いかなる獄につながれることもない《赤の王》迦具都玄示が自ら「入獄」したことは、彼なりの諧謔だろうか。ともあれ現在は、その「監獄」が《煉獄舎》の本拠地となっている。
 そして――《赤の王》とその配下は、思うままに「脱獄」する。
 治外法権の及ぶ属領を抜け出し、都下の一般市街に出没しては、炎の異能をほしいままに振るうのだ。そのようにして、しばしば無辜の市民を死傷せしめるのみならず、直近のベータクラス案件〝柊事件〟においてはついに、幹部クランズマン・柊刀麻の暴走が、繁華街の一区画を完全に焦土へと変えるに至った。
 《煉獄舎》は地図の上に舞う火の粉、放置すればどこまでも燃え広がる、燎原りょうげんの火種だった。彼らの振るう超物理的な破壊力に対し、通常の警察力は対処能わず、また、《七王の盟約》の盟主たる立場から、《黄金の王》率いる《非時院》の対応も遅れがちとなる。その状況にあって、迅速に現場に到着し、彼ら黒衣の火種を叩き潰すことは、《青の王》羽張迅が、おのれ自身と配下のクラン《セプター4》に対し、自ら課した責務だった。
 その責務の延長線上の判断として、羽張はついに、《煉獄舎》属領への侵攻と《赤の王》の誅殺を決意した。
 《七王》の存在が一国の法を超えたものである以上、それは法的な正当性に則る行為ではない。
 では、私闘の類か。それもちがう。
 限定王権戦争。《王》の意志によって戦われるその闘争は、国家をも超えた万民に対する「おおやけ」の行ないだ。
 《青の王》羽張迅はそう考える。
 《黄金の王》國常路大覚はそれを認め、他の王権者たちもまた、黙認し静観している。
 だが《赤の王》迦具都玄示は?
 ――そもそも迦具都に対しては、意志を問う余地も、必要もない。
 かの暴虐の《王》は、存在するだけで街を焼き人を屠る、灼熱の凶獣。生命持つあらゆる者にとっての災厄だ。天下蒼生のため、能う限り迅速に駆除されなければならない――
 羽張迅は、そう考えている。
 迦具都は考えず、語らず、ただ檻の中で嗤っている。

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