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K SIDE:PURPLE 02

著:鈴木鈴

 淀宮は、都内でも有数の歓楽街だ。
『若者の街』と称される鎮目町よりもディープで猥雑な、いわゆる『大人の街』である。飲食店やバーが立ち並ぶ表通りを外れると、キャバクラやホストクラブ、特殊マッサージに風俗店がひしめく裏路地、通称『二番街』に入ってしまう。一見の客がうかつに足を踏み入れれば、即座に客引きに腕を取られる――『二番街』には、そんな雰囲気が漂っている。
 御芍神紫は、そんな街で生まれ育った。
 彼の母親は『二番街』の中心に位置するバー『花菫』のマスターだった。父親は不明。母はそのことに触れなかったし、紫もそれを訊ねることはなかった。そうするよりも先に、母は長年患ってきた心臓の病に倒れ、帰らぬ人となったからだ。
 小学校に入るよりも先に、紫は天涯孤独の身となった。
 それでも、彼は本当の意味での孤独にはならなかった。『二番街』の住人たちが、進んで彼の面倒を見てくれたからだ。
 サユリは、その中でも特に紫に肩入れしてくれた女性だ。もともとは『花菫』で働いていたのだが、母の死をきっかけに店のマスターとなり、今では紫の同居人と保護者を兼ねる存在になっていた。
 紫の担任教師が『二番街』を『こんなところ』と呼んだ理由はわかる。酔っぱらい同士の暴力沙汰や、痴情のもつれからの諍いがしばしば起こるような場所は、確かに子どもが育つに適した環境とは言えないだろう。
 それでも、紫は『二番街』が好きだった。
 この上もなく猥雑で、人々がひしめき合うようにして生きているこの場所を――なぜか、美しいと感じていた。

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3,575字

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