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K SIDE:PURPLE 01

著:鈴木鈴

 鳥のさえずりで、御芍神紫は目を覚ました。
 布団から起き上がり、伸びをひとつ。眠りの余韻にぼやけていたのは、ほんの5秒ほどのことで、すぐに立ち上がると、そのまま部屋を出た。
 軋む廊下を歩き、1階へと降りていく。話し声はしない――ということは、昨晩の客は朝を待たずに帰ったのか。そんなことを考えながら、洗面所へと入っていく。
 顔を洗う。歯を磨く。スキンケアをして、髪をセットする。
 ひととおりの手順を終えて、彼は鏡を覗き込んだ。親譲りの、琥珀色の瞳が光っている。まつげを軽く整えているところで、背後に人影を見つけ、振り返る。
「おはようございます。サユリお姉様」
 サユリ――バー『花菫』のマスターであり、彼の保護者でもある女性は、眠たげな目で微笑み、挨拶を返した。
「おはよ、紫ちゃん」
 軽く会釈をしてから、紫はサユリと入れ替わるように洗面所から出た。そのまま、『花菫』の店内に向かう。
カウンター席が6つだけの、客同士がすれ違わなければ移動もままならないほどの、小さな店だ。それでも、折り目正しく並べられたボトルの配置や、よく手入れされたカウンターの木目から、サユリがこの店に抱く愛着が伝わってくるようだった。
 冷蔵庫から食材を取り出しながら、紫は水音が響く洗面所へと声をかけた。
「お姉様、朝ご飯はどうなさいますか?」
「ん。もらうー」
 気安い声を受けて、紫はガスコンロに火を点けた。
 サユリが洗面所から出てきたときにはもう、カウンターに朝食が並べられていた。ぴかぴかのご飯に、風味の香る味噌汁。アジの開きは飴色に輝き、焼き海苔が黒い彩りを添えている。
 化粧を落とした顔をほころばせ、サユリは座っている紫のことを軽く抱きしめる。
「うーん、良い子! 引き取って良かった!」
「早く食べないと、冷めてしまいますよ」
「はいはーい。いただきます」
「いただきます」
 カウンターの席に、2人で肩を並べながら、紫とサユリは食事を始める。
 サユリは味噌汁を一口すすると、ほう、と吐息を漏らした。
「ああ、ほんっとにおいしい……」
「お姉様は、お味噌汁がお好きですね」
「めちゃくちゃ飲んだあとの朝には、特にしみるんだよね。なんなんだろうね、これ。身体が必要としてるって感じ」
「よくわかりません」
 正直にそう言うと、サユリは笑いながら彼の頭をくしゃりと撫でた。
「そのうち紫ちゃんにもわかるよ。お酒を飲める歳になったらね」
「だいぶ先のことですね」
「意外とそうでもないかもよ」
 くくく、とひとりで笑う。紫は肩をすくめ、食事に専念しはじめた。

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