保健所で燃やす。砕けぬ骨の代わりにぼくは。
「悲劇の主人公を気取りたいだけ」なのでは
確かにそう取ることはできるし
どこかそうなっているところもある。
だからその批判は正しい。
未来を見ていると口にして
いつまでも記憶に原点を求め
鮮やかに彩ることで美化に浸る。
その実、現実では足の踏み出し方がわからない。
情けない。
でも、それでも
その矛盾と不甲斐なさに尾を引かれても
あの日々を言葉で甦らせたい。
浸れる瞬間を永劫に残していくために
自己満足に延命させたい。
覚えておくのは文字だから。
文字が、言葉が
覚えていてくれるから。
涙したのは確か。
手が震えたのは確か。
鼻をすすったのは確か。
嗚咽が漏れたのは
確か。
だから、書く。
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もはや日付は忘れたような
とりあえず高3年の時。
また。
まただ。
なんで路上に飛び出る、お前たちは。
なぜ飛び出る。
あれほど手を合わせても足りないのか。
手を、合わせてきただろう。
あれほどに、手を。
頼むから、この世から消えてくれ。
もう見たくないんだよ。
頼むから、いなくなってくれ。
胃の中から染み渡って肺を塞ぐ
この悪寒が大嫌いだ。
あれほどに。あれほど、いっただろう。
死ぬなって。
生きろって。
幸せに生きろと。
なのに、なんでお前らは。
なんでだよ。
なんで、また死んでんだ。
死んだら終わりなんだぞ。
ふざけるな。
ふざけんなよ。
爪痕だけを残していく。
「もう嫌だ」と
虚ろな脳から伝わった信号が
口と舌に覚えさせた言葉を吐かせた。
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学校まであと5分。
おれのペースなら20分くらい。
左へそれる脇道のそばで
白い猫が死んでいた。
脇道では必ず止まらないと歩けなくなった。
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わりと冴えた感情と
わりと冷めた感情で
淡白になったのか 慣れてしまったのか
また猫の死骸を見下ろしていた。
まるで乾いた脱脂綿みたいだ。
息はない。
そこに安心した自分がいた。
病院にはつれていかなくていいから。
目の前で息絶えるのは見なくていいから。
体重が急に重くなるあの感覚を
腕はもう味わわなくていい。
そんな風に安堵した自分を
後々になって「死ねよ」と思った。
「お前みたいなのがいるから、こうやって確認作業をやめられないんだよ」
って
100分の0.01に責を押し付けた。
まぁ、もう死んでるけど。
ここまでくると笑えてくるんだよな。
本当に空を見上げて笑いだしたくなった。
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その日はビニールがなかった。
段ボールをもらえそうな店は開店してなかった。
近くに埋められそうな場所もなかった。
授業に遅れたくなかった。
でももちろん放っておけないから
だから、一瞬の躊躇って
自転車のかごにそのまま突っ込んだ。
嗅ぎ慣れた死臭に吐き気がした。
やってることが異質なのに
一瞬しか躊躇わなくなっていた。
気持ち悪いなと思った。
でも内臓は飛び出てないし、別にいいやと思った。
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そのままかごにいれたまま
午前の授業に向かった。
始終ボーッとした頭には何も入らなくて
ペン先がふらふらと白紙の上を踊った。
気がつけば猫のことしか考えていなかった。
昼休みになって
購買で買ったパンを食べた。
なんてこの焼きそばパンは不味いのだろうと思った。
猫はさすがに夜まで自転車にいれておくわけにはいかないし
先客でいっぱいな庭にはもう埋めるスペースもない。
だからついにさいしゅうしゅだんやわ
そうして、遂に保健所に電話した。
発見した場所は学校の前だって嘘をついた。
「そのまま分かりやすいところに置いておいてください」って言われたから
校門の横に
『保健所の方へ。猫です。』
って紙に書いて段ボールに貼った。
フードを被って机に伏せて
狂ったように「If I die young」を流した。
昼休み
この缶コーヒーは死ぬほど不味いなと思った。
涙と鼻水が机を汚した。
次使う学年の人、ごめんな。
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なんだかな。肩の震えが止まらない。
顔はぐちゃぐちゃで
もうすぐ声が漏れそうだ。
「ひうっ」
そう言えば、ちゃんと祈ってやれてなかった。
フードを深く被ったまま
静かに教室を飛び出した。
飛び降りる階段の残像を
涙が緑の線に変えた。
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「ごめんなあ。ごめん。
ごめんて。本当にごめん。」
謝罪だけが罪悪感を軽くするようだ。
声にならない言葉がたくさんあった。
段ボールの端を強く掴んで
ぎゅっとつぶった目の端から涙をこぼした。
くぐもる声で、震える声で
「If I die young」の一番を歌った。
魂が太陽のもとに届いていくことを
雲の上の楽園へと
星になれと
泣きじゃくりながらひたすらに謝罪した。
祈った。
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大半の野良猫の轢死体は保健所に回収される。
その後は燃やされる。
骨だけになった彼らは生ゴミになる。
魚の骨は捨てられるのに
猫を捨てるのはなかなかに難しい。
君を最後に見た校門の横の小さな窪みには
今もまだ雑草が生えているよ。
そんな時に見つけたとある記事が今も忘れられない。
https://www.huffingtonpost.jp/amp/entry/inochi-no-hana2_n_8484618/
保健所に電話し直して
焼いた後の骨はもらえないのかを聞いた。
もらえなかった。
おれに「エンジェル」とあだ名をつけた英語の先生にこの活動をしたいと嘆願した。
先生は悲しそうな目をして
辛そうに
「君には受験があるだろう」と言った。
なにもしてやれないことに
本当に腹が立つよ。
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とある子猫から始まったこの負の連鎖は
強迫性の障害となって
その怨恨を今日も引きずっている。
あの道はいまだに歩けないし
あらゆる物陰に死骸を探している。
人生を大きく狂わせたけど
今を作ったのは確か。
波及させていく。
「命の価値」と「懺悔」と「共存」を。
だから、今日も発つ。
【過去昨】
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