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日系企業 vs 外資系企業:雇用形態から見る生産性の差

私は、新卒で就職して55歳でセミリタイアするまで、サラリーマンとして働いていた。その間、日本企業2社と外資系企業2社で約15〜16年ずつ仕事をした経験がある。外資系企業時代には海外本社で外国企業とも仕事をし、日本支社では多くの日系企業との共同プロジェクトにも携わってきた。自分で言うのもおかしいが、国内外の多様な同業他社でこれだけ広範な経験を積んだ日本人サラリーマンは、それほど多くはないのではないかと思う。これまでの経験を基に、日本企業と外資系企業の違いについて、独断と偏見に満ちた考察をしてみたいと思う。

最大の違いといえば、やはりメンバーシップ型かジョブ型かの雇用方式の差である。日本企業では、新卒一括採用で多くの若手を採用し、入社後に社内で教育を施すスタイルが一般的である。これは、会社にとって「当たり外れ」が生じる可能性があるが、その中で社員同士が「家族」のような連帯感を持ち、チームでお互いをカバーしあって仕事を進める文化が形成される。これがメンバーシップ型の特徴である。

かつて仕事を共にした日本企業の若手社員たちは、「〇〇はこうやるんですよ」「△△としてはこう思う」といった発言をよくしていた(〇〇、△△は彼らの会社名)。若手社員でありながら、まるで自分がその会社の役員であるかのような発言には違和感を覚えた。このように、会社への強い帰属意識がメンバーシップ型雇用方式において根付いているように感じる。にもかかわらず、アンケートなどでは日本の会社員の忠誠心が海外よりも低いとされるのはなぜだろうか……。

一方、外資系に多いジョブ型雇用では、採用時点で明確なポジションが決まっている。私も外資系で何百回も採用面接をしてきたが、最初から求めるスキルや職務が明確なため、採用のミスマッチが少ない。求職者も自分の希望する職種や報酬で採用されるため、入社後すぐに成果を出せる環境が整っている。学生たちは、インターンシップを通じて会社で必要とされるスキルの形成を行うと共に、自分の適正にあった会社かどうかを事前に見極めて入社しているケースが多いようだ。入社後の人材流動性が高いことも、ミスマッチの問題を少なくしている。

ただし、社内教育という点では日本企業と比べて非常に貧弱である。必要なスキルは入社前から備えていることが前提であり、会社が提供する教育プログラムは限定的であることが多い。この点において、受け身の姿勢が強い日本の就活学生にとっては、社内教育制度が不足していることが外資系の大きなマイナスポイントと感じられるかもしれない。

実際の仕事の現場ではどのような違いがあるのだろうか。外資系企業では個人への権限委譲が日本企業に比べて圧倒的に進んでいると思う。個人が責任と同時に権限を持って業務を進めるスタイルが一般的であり、顧客との打ち合わせでもその場で決定を下すことができる場合が多く、出張も一人で行くことがほとんどである。そのため、バカンスなどで担当者が長期に不在となっても、他の誰も代わりになることができず、その間仕事が止まってしまうことも儘あるが、それでも大きな問題にならないことが多い。普段から、いかに効率よく計画的に仕事を進めているかが分かる。

一方で、日本企業ではチームでのカバー体制が強く、効率性に欠ける場合も見受けられる。ひとつの打ち合わせや出張に何人もの社員が参加し、一部を除いて挨拶以外何も喋らないで帰ったりする。責任はあっても権限がなく誰も決めることができないため、打ち合わせの結論がその場で出ないことも多い。効率的に仕事を進めたくて、決定権を持つ人物を探していくと、最終的に重役や社長までたどり着いてしまうことすらよくある話だ。

また、事前に仕事の計画を立てても詰めが甘く、その通りに進むことは多くない。そもそも計画そのものにあまり重きを置いていないとも言える。しかし、誰かが個人的に休暇をとって計画通り進まなくなりそうな時でも、周囲の人たちがすぐにカバーするため全く問題にならない。「全員野球」とか「力技」などとよく言われる日本独特の手法である。

これらの違いの多くは、主に雇用形態の違いによって生じていると考えられる。メンバーシップ型の良さも理解しているが、生産性の低さだけは大きな課題だと感じている。日本企業には優れた人材と技術が存在するが、そのポテンシャルを最大限に活かせていないように思う。とは言え、形式だけでなく会社の文化や風土が変わらない限り、本質的な変革は難しいだろう。

外資系と日本企業、どちらにも強みと弱みが存在するが、これからの日本において生産性を最大化するためには、適切な雇用形態と社会文化的変革が求められるのではないだろうか。