【感想Day1】「デザイン経営2020」Withコロナ/Afterコロナを創造的に生き抜くには
どんなセミナー?
今年春に相次いで公開されたデザイン経営の実践に関する最新レポートを踏まえ、ゲストと共にWithコロナ/Afterコロナ時代のデザインの活用と経営のあり方を議論します。後半は「デザイン経営の始め方」をテーマに、参加者の皆さんが日頃関心を抱く課題ごとにデザイン経営の実践内容の理解を深めるプログラムをご用意しています。
とのことで、ロフトワーク社主催で、「デザイン経営」に関する「理想と現実」「これからのあり方」について、有識者を交えた議論を通じて、業界の先端を見つめようという試みだという理解で参加しました。
当初はオフライン200名限定イベントでしたが、コロナ禍でオンラインに変更となり、2000名以上の閲覧者となったようです。
Timetable
16:00-16:05
Introduction「Withコロナ/Afterコロナ時代に考えるデザイン経営」
株式会社ロフトワーク 代表取締役 林 千晶
16:05-16:20
Report「“デザイン経営”ハンドブック/デザイン経営の課題と解決事例」
特許庁 デザイン経営プロジェクト 統括チーム 外山雅暁(”デザイン経営”ハンドブック/デザイン経営の課題と解決事例プロジェクト責任者)
16:20-16:35
Report「中小企業のデザイン経営 調査報告」
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター 加藤修平 (”中小企業のデザイン経営”調査プロジェクトリーダー)
16:35-17:20
Cross Session「調査結果から考える、これから必要なデザインと経営の関係」
黒鳥社 コンテンツ・ディレクター 若林 恵
株式会社HAKUHODO DESIGN代表取締役社長/クリエイティブディレクター 永井一史
株式会社ロフトワーク 代表取締役 林 千晶
17:20-17:25
Theme Live Session「これから始めるデザイン経営」各テーマ紹介
17:40-18:20
Theme Live Session 「これから始めるデザイン経営」
参加者の関心あるテーマに分かれ、各テーマへの理解を深める追加セッションと議論
何を期待した?
「デザイン経営」についての具体的な事例紹介と、先端的な意見交換を期待していました。
なにを学んだ?
第1部で特許庁 「デザイン経営」プロジェクト 統括チーム 外山さんから、『「デザイン経営」宣言』に関する概要紹介がありました。
こちらとしては事前知識のあった分野になりました。
「デザイン経営」の報告書にもあったとおり、
全社的な意識の不統一、ビジョンの浸透、効果の定量化が進んでおらず、結果指標・プロセス指標の策定する意思も取り組みもないということが課題であるということは、以前のnoteでも指摘しておりました。
そのあとロフトワークさんの「中小企業のデザイン経営 調査報告」に関する説明がありました。
「数字で見るデザイン経営」の部分は、有用なデータだと思いました。
またプロセスの図解も参考になりましたが、セミナー内でも言及があったように、「デザイン経営」とは決して一方通行的なプロセスではないことに留意が必要のように思います。
「中小企業のデザイン経営〜経営者のビジョンが文化をつくる〜」のダウンロードはこちら。
どうだった?
Cross Session「調査結果から考える、これから必要なデザインと経営の関係」に関しては、永井さん、若林さんから、今後を見据える上で重要となる言葉のエッセンスをいただきました。
ただ、聴衆が2000人を超えてしまった反動からか、全体としてかなり薄いとりあげ方となっていました。
2000人もいると、課題意識や事前知識に差があり、低い方にレベルをあわせる必要があったので、話すがわも辛かったように見受けられました。
デザインの定義とか、「デザイン経営」と企業ブランディングの違いとは?といった言葉がチャットで飛び交っていたのも象徴的でした。
「デザイン経営」はできていないのか?
どうすれば「デザイン経営」なのか?
「デザイン経営」以前に、日本的な会社のあり方として、経済的な成功だけでない、三方良しの考え方が古くからありました。
これは、産業革命を端緒とする欧米の科学的経営の仕組み、それを背景とした新自由主義とは一線を画した考え方だと思います。
もともとの日本が持っていた、多様な考えを受け入れる経営というのは、こんにちのSDGsや「デザイン経営」的考え方にも通ずると思います。
現に、世の中には「デザイン経営」が取り沙汰される前から、デザイン経営的経営をしてこられた会社はたくさんあり、また「デザイン経営」をしなくとも「デザイン経営」的な視点で取り組む会社はたくさんあります。
そういう意味からも、
「デザイン経営」とは、「するぞ!」と意気込んでやるものではない、
と個人的には思っております。
デザイン思考で考える=「デザイン経営」という単純化も、
視聴者の中にはみられましたが、そうではありません。
ましてや、デザイナーを経営に入れるとか、デザイン部署の地位をあげるといった外形的な話では決してありません。
視聴者の中には「デザイン経営」を進めるプロセスやメソッドについて質問している方が多かったのですが、とても違和感を感じました。
そう聞くこと自体、要素還元主義的、科学的分析であり、デザインのもつ思考と対極にある従来型経営思考から脱却できていないのだと思います…
「デザイン経営」とは、価値観の転換であり、
価値観を変えれば全てのありようは変わる、
そのためにデザインのもつ、問いと可視化と伝達の力を有効に使うよ、
ただそれだけのことと思っています。
そのような、価値観の転換のきっかけをもてない企業に対しての
「蜘蛛の糸」が、「デザイン経営」宣言なのだと理解しています。
お釈迦様のご慈悲で垂らしていただいた一本の糸。それをみんな登ってくる。独り占めしようとしたカンダタの目の前で糸は切れ、再び地獄の底に堕ちてしまいました。
「デザイン経営」とは、ブランディングもイノベーションも含め、企業活動の全部を包含した一環したアプローチになりますが、最初は、はじまるのが小さな1箇所からでも、次第にレイヤーが上がっていくものだと思います。フレームワークがいきなり全社一斉に適用できるような取り組みではないことだけは確かかと思います。
蜘蛛の糸に一斉にぶら下がっても、巣は壊れてしまいます。蜘蛛の糸を着実に上手にはることで、しなやかで強い構造体ができると思います。
「デザイン経営」の前は何経営なのか
それは科学的経営といえると思います。
そして産業革命以後の科学的経営は、グローバリゼーションとデジタライゼーションだったが、ここに来て行き詰まりを迎えている、つまり
・経済合理性だけでは、持続的な成長に限界を迎えている
・進化が行き過ぎて、予測が不可能な状態になっている
ことで、近代モデルに限界がきているということかと思います。
そこに対し、デザインという名の
問いの力で Why?を明らかにし、
可視化の力で What?を明らかにし、
伝達の力で How?を作り出す
ことが必要になっていると考えます。
これからの経営にもとめられる要素
消費者ニーズ/生活者ニーズという話ではない、センスメイキングだと言う話が若林さんからありました。
自分が世界をどのように理解しているか、複雑な束をかかえて人間は生きている、それらの観察をおこなうことが、現代のリサーチであり、欧米ではリサーチに社会学・文化人類学者が関与しているそうです。
従来(というか産業革命以後)の経営が
「理性」とinduction/deductionに基づく科学的経営だったとすると
今後もとめられるのは
「悟性」とabductionに基づく認知人類学的経営
なのではないでしょうか?
「デザイン経営」することが目的ではない
近代モデルは限界に達し、組織の構造とビジョンとの関係に不整合が起こりつつあります。
「デザイン経営」はそれに対する銀の弾丸ではありません。
「デザイン経営」はプロセスやメソッドや目的ではありません。
経営の目的は「より豊かになること」だと私は考えています。
豊かとは、物質的にも、金銭的にも、そして精神的にもです。
しかし、未曾有の危機にある私達は、豊かになる前に、生き残ることを考えねばならない状況にあります。
ビジョンを見つめ直し組織を作り変えることで生き残ることが必要であり、生き残る可能性をあげるものの一つが「デザイン経営」ということです。
「デザイン経営」=ふつうの経営へ
図らずも疫病により、歴史的な大転換期に否応なく直面させられた私達。
進化上で、変化に対応できない種が滅びたとするのがダーウィニズムです。
個体変異に選択をかけても、特定の形質のものが残るだけで新たな形質の個体が生まれるわけではありません。ここに突然変異を組み込み、そうしてできた新たな遺伝子を含む個体群に選択がかかる、このようにして生命は進化していきました。
個体の一部に変革を促すだけでは、生き残れないのかもしれません。
アフターインターネット時代の経営に、なぜデザインが召喚されているか。
経済の仕組みがかわり、いままでのデフォルトがデフォルトでなくなり、価値観の大転換が起こるからです。
その価値転換に必要なのがデザイン。
デザインの本質は、現状をどうより良くしていくかの試みです。
そのために、企業としては、人を真ん中に置いて、豊かな生活をみつめていくことが必要。それが、企業という存在の本質と繋がっていきます。
「デザイン経営」と呼ばれるものは、今後のふつうの経営になるのだと、私は思います。
Day2の感想はこちら ↓
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