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「GOOD SURVIVE PROJECT」が成果を生み出すわけ

「地域を元気にする」

言うのは簡単だが、実現させるために地域の事業者ができることは何だろうか。

前回記事では2020年2月に3日間の日程で開催されたプログラム「CAMP」の様子をもとに、足立区の事業者たちが足立というまちと各自の事業の魅力を捉え直すことで、それぞれの熱意が高まっていく様子を届けた。

その続編となる今回は、「CAMP」のアナザーカット、事業者同士のつながりによって新たな試みが産声が上がる化学反応についてのレポートだ。

壁のないコミュニケーションが生まれるわけ

「CAMP」第3回に参加した6事業者は下記の通り。

同人誌専門の印刷会社「しまや出版」
アート&コミュニティスペース「千寿てまり工房」
布帛の高級婦人服(プレタポルテ)縫製工場「マーヤ」
古民家「野菜日和」(KAZENO HITO)
子育て世代のママによるものづくり「T&E JAPAN」
畳雑貨の販売や畳材料を使ったワークショップも行っている「小川畳店」

ワーク中に交わされた事業者たちの会話、そしていきいきとした表情は、プログラムが終わった後への期待を大いに感じさせるものだった。

なお、「CAMP」に参加した事業者たちはすべて異業種で、同じ仕事をしている人は一組もなかった。それにも関わらず、コミュニケーションに壁が存在しないのは「自分と他の人たちの事業の価値を共有したい」共通の思いがあるから。

「今回参加したきっかけは、いろいろな事業者の方とものづくりを通して何かできれば良いなと思ったことです」

そう語るのは、ママ達が作るベビーとキッズの為のハンドメイドアクセサリー「T&Eジャパン」を営む染谷さん。

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明るい印象の女性で、ワーク中もたくさんの事業者の方と楽しそうに話している姿が印象的だった。

彼女が今回のプログラムを通じて特に得たものは「コミュニティ」を軸に事業を発展させていくためのヒントだという。

「現在、メンバーは10人です。最近はママたちだけではなくて、パパも関われるコミュニティが作りたいと思っています。コミュニティ作りのヒントもこのプログラムで得られました」

ただものづくりをするだけではなく、過程で生まれるコミュニケーションに重きを置く染谷さんは、価値を共有する手段としてクラウドファンディングにひとつの道筋を見出した。

「CAMP」が起こす、事業者同士の化学反応

そんな染谷さんの言う「コミュニティ」が意外な化学反応を生む相手となったのが、「小川畳店」の小川さんだ。

小川畳店は1970年に創業、畳の販売や張り替えを主な生業としていた。近年は畳雑貨の販売や畳材料を使ったワークショップを始めたが、小川さんは小川畳店をPRしていくためのきっかけを得るため「CAMP」に応募した。

「畳が作られていく過程を追うツアーも計画したいのですが、熊本県の農家まで行かなければならないので、予算上難しい点もあります。その課題をママさんたちが集うT&Eさんとの出会いが解消してくれるかもしれません。弊社の畳の相性はとても良いですね。事業者さんのショールームに畳を提供するという方法もあると、新たな発想を得られました」

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畳は日本人のふるさとのような存在だ。座ったり寝転んだりしていると落ち着くし、居心地が良い。子どもやママさんが集う場所に畳があれば、リラックスして作業できるだろう。自分一人で考えていては起き得なかったコラボレーションが次々と生まれていく流れに、参加者もワクワクを抑えきれない。

だが、CAMPの化学反応はまだまだ終わらない。

畳の原料となるいぐさは、りっぱな農産物だ。ここで、農業と関わりながら事業を営んでいる老沼さんが口を開く。

「私は『農家として作る足立の食』をテーマに、足立区の古民家で一か月に2回野菜を販売したり、コミュニティを作ってツーリズムをしたりしています」

KAZENO HITO / 古民家「野菜日和」の老沼さんは、民族映像研究所で農家の生き様を映画として放映し、時には季節風呂も解放している。驚くのは、すべての取り組みを自分ひとりで行なっているということ。

聞けば、「GOOD SURVIVE PROJECT」が始まる前から、「他業種とコラボをしてみたい」という願望を持っていたという老沼さんを軸に、CAMPの化学反応はさらなる展開を見せる。

一人ではできない「地域活性」

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自身が足立区の市場で野菜を買い、農家について知りたいと思ったのが事業を始めたきっかけだったと語る老沼さんは、足立に多いものづくりの会社を含めた地域の活性化を実現したいミッションに掲げている。
そして、そのためには自分一人の力では足りないことに気が付いた。

「ひとりで全てをすることに限界を感じていましたが、コラボは同業他社ではできません。このプログラムで異業種の方とコラボのきっかけを生み出せました。足立の事業者間のネットワークは実はとても広いんです。いろいろと試行錯誤しながら、今後10年で、少しずつ足立と地方をつなげられたらと思っています」

CAMPのワークで他の事業者と話をしているうちに、T&E、小川畳店との間で3事業者によるクラウドファンディングの構想が生まれた。

農業・畳・ハンドメイド…従来イメージが結び付きにくかった異業種の事業者たちが、「GOOD SURVIVE PROJECT」を契機に結び付いていく。

「最終的にクラウドファンディングという形にはならないかも知れませんが、それぞれの事業を組み合わせることで、新しいことにチャレンジできる…その発想はGOOD SURVIVE PROJECTに参加しなければ得られないものでした」

参加者みなが口にした、「CAMPによって、自分と他業種の事業者でアイデアを練り上げるきっかけができた」という意見。「地域活性」をうたう数多くのプロジェクトと、一体なにが違ったのだろうか。

まずは「自分たち」のために

CAMPの雰囲気や議論が生み出す成果については、課題設定や事業者のアイデアに対するフィードバックでメンターが果たす役割も大きい。

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編集者で『ローカルメディアのつくりかた』(学芸出版社)の著者でもある影山さん、クラウドファンディングプラットフォーム『MOTIONGALLERY』と、誰でも街に映画館を設立できるようになるためのプラットフォーム『POPCORN』を立ち上げた大高さんは「CAMP」についてこう総括する。


「自分の隣にいる人が、自分の事業のサービスを喜んでくれるか考えることはとても重要なポイントでしたね。発信するべき事柄を、外ではなく内側にもってくる。これは足立の地域性を掘り下げることにもつながります。

ワークショップが終わってから2週間くらい作業をする時間があり、事業者たちがアイデアやフィードバックを時間をおいて寝かせることができたのも良かったですね」(影山裕樹さん)

「事業者ごとに集まり、外行きではない内発的なストーリーの構築をできたのが良かったと思いますし、足立の今後の展望でもあるのではないでしょうか。

これからの時代に0から事業を組み立てていく上では、数字の議論以上に、そもそも自分が何をやりたいのかというPURPOSEと、そこに共鳴してくれる顧客の顔の解像度の高さが重要です。個々の事業者が、それをアウトプットできたプログラムでしたね」(大高健志さん)

ただの「お勉強」ではなく、実践を意識した「GOOD SURVIVE PROJECT」のCAMP。「プログラムの先にあるもの」をすべての事業者が見据えていたのは、大きな特徴と言えるだろう。

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第4回となる次回記事では、渋谷ヒカリエで開催されたトークイベントをもとに、「足立区だからこそできること」を掘り下げていきたい。

メンター

大高 健志
株式会社MotionGallery代表
外資系コンサルティングファームにて事業戦略立案等のプロジェクトに従事後、東京藝術大学大学院に進学し、クリエイティブと資金との関係性構築の必要性を感じ、 ’11年に『MOTION GALLERY』設立。
https://motion-gallery.net/

影山 裕樹
編集者、合同会社千十一編集室代表
著書に『ローカルメディアのつくりかた』(学芸出版社)、編著に『あたらしい「路上」のつくり方』(DU BOOKS)などがある。全国各地の地域プロジェクトに編集者、ディレクターとして多数関わる。一般社団法人地域デザイン学会参与、路上観察グループ「新しい骨董」などの活動も。2017年、本づくりからプロジェクトづくりまで幅広く行う千十一編集室をスタート。https://sen-to-ichi.com/

友廣 裕一
一般社団法人つむぎや 代表/リソース・コーディネーター。大学卒業後、「ムラアカリをゆく」と題した日本全国70以上の農山漁村を訪ねる旅を通じて、各地の暮らしや仕事について学ぶ。その後は個人事業主としてご縁のあった地域の方々と活動していたが、2011年3月からは宮城県石巻市で活動。現在は東北をはじめ、各地で地元の人たちと場づくりからモノづくりまで行う。主に事業のプランニング・ディレクション等を担当。http://tumugiya.org/

水野雄太
編集者、NPO法人記録と表現とメディアのための組織[remo]
編集プロダクションにて「artscape」「10+1 website」の企画編集や書籍編集に従事したのち、NPO法人remoに参画。“市井の人びとの記録“に着目したコミュニティアーカイブプロジェクト・AHA![Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイブ]に関わる。
https://www.remo.or.jp/ja/

事業者

小川 昭子
小川畳店
1970年創業。2003年から2代目が跡を継ぎ現在に至る。国産畳専門店。襖・障子・網戸・クロスなどお部屋の内装をトータルで扱っている。
https://ogawatatami.com/

老沼 裕也
KAZENO HITO
農産物を活用した地域活性化事業、農業サポート事業、地域コミュニティ事業運営。
http://kazenohito.com/

小早川 真樹
株式会社しまや出版
印刷・製本業
特に、サブカルチャーを中心とした個人で制作するマンガや小説等の同人誌(小冊子)印刷・製本を得意としております。
https://www.shimaya.net/

染谷 江里
T&E JAPAN株式会社
毎日が記念日というテーマで様々なシーンに使えるアクセサリーブランドTomorrow and Everydayを展開。足立区在住の子育てママを中心に企画から製造、販売まですべてを行っています。また、アクセサリー作りをきっかけに集まった10代から70代までの女性同士がモノづくりを通して世代を越えた交流が生まれています。
https://www.tomorrowandeveryday.com/

佐藤 裕佳
千寿てまり工房
伝統工芸品"てまり"のプロデュース事業。てまりを活用したアクセサリーブランド展開、商品開発、インスタレーション展示。東京・北千住に「千寿てまり工房」を構え、ギャラリースペース運営、てまり製作体験イベント開催など。
https://senjutemari.com/

菅谷 正
株式会社マーヤ
弊社は国内高級婦人服ブランドの衣料品製造を請け負う縫製工場です。お客様から生地、パターン、仕様書をお預かりし、裁断・縫製・プレスして納品する製造のプロ集団です。
https://marya.tokyo/

鈴木 国博
ザオー工業株式会社
弊社は主に弱電メーカー様から外観金属プレス部品と銘版を受注生産しております。社内で金型製作、プレス加工、シルク印刷をワンストップサービスでご提供する事で、お客様からご好評頂いております。創業からの銘版製作で培った経験と技術を生かして、外観部品製作が得意で稀有な金属プレス部品製造メーカーです。
http://www.zaoh.com/

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