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GOOD SURVIVE PROJECTは、続いていく。

北千住と渋谷ヒカリエで行われた、これからの足立の仕事と暮らしを考える作戦会議「TALK」。そして足立区事業者の産業を支援した就労プログラム「CAMP」。

これまで事業者たちにとっては普段と異なる発想に触れ、実践する機会が続いてきたGOOD SURVIVE PROJECTだが、ここでは、彼らのホームグラウンドであるものづくりの現場を巡るプログラムが実施された。

「ADACHI FACTORY TOUR」だ。

ものづくりの現場を巡る

晴れた空の下、参加者が集合したのはつくばエクスプレスの六町駅。

13人の参加者に加え、PR/編集・流通・プロデュース・ブランディングの各分野から、5人の専門家が集まった。

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PR/編集業界からは、地域と人のつながりにイノベーションを起こすことを目標とした株式会社WHERE代表の平林和樹さん。

流通業界からは、世界中のデザイナーと購入者を繋ぐ、デザイン商品のオンラインマーケットプレイスPinkoi(ピンコイ)代表の山岡礼佳さん。

東北を中心に全国各地で地元の人たちと関わり、事業づくりを行ってきた一般社団法人つむぎや代表の友廣裕一さん。

日本の伝統工芸品や技術を国内外に紹介し、プロデューサーであり、株式会社Culture Generation Japan代表でもある堀田卓哉さん。

現代美術家とのコラボレートの経験もあり、現在は株式会社箔一のブランディングマネージャーとして、金属加工技術を軸にメイドインジャパンのプラットフォームブランド創りに携わる鶴本晶子さん。

最初の工場に着く前から、今回のファクトリーツアーへの意気込みについて盛んにコミュニケーションをとる5人。

ファクトリーツアーの後は、5人が3つの工場でものづくりに携わる事業者にアドバイスする意見交換会が設けられていることも、このファクトリーツアーの特徴だ。

ADACHI FACTORYの抱える悩み

バスで巡ったのは、足立区内にある三つの工場。

まずは旭染工。てぬぐいの手染めやゆかたなどの染色加工に携わっている企業だ。
バスを降りると、染めた後の布を乾かすため、青空に鮮やかな色の布が舞っているようすは鯉のぼりを思い起こさせた。

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使っているのは木綿生地専用の化学染料。裏表のない鮮やかな染色は、すべて手作業で行われている。30枚から40枚、折りたたんで重ねて染めることができ、量産性がある。

経営者の説明には自らの事業への愛が感じられる。そして、旭染工は若手職人が多い。

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見学後、事業者がバスに乗り同行する。旭染工の経営者である阿部さんは「採算性が落ち込んでいて、生産から販売まで手がけたいと思っているのだがジレンマがある」と悩みを打ち明けた。

それぞれの視点から寄せられる専門家たちからのアドバイスは、「若手職人が多いので、アイデアを出してもらってみては?仕事が忙しくて難しいかも知れないけど、成功例がある」「職人をインフルエンサーのようにして、SNSで発信すると良いかも知れない」などと、若い職人が多いという旭染工の強みを活かしたものが多かった。

続いて訪れたのは、「CAMP」参加事業者の一つだった高級婦人服縫製工場マーヤ。
立地的にも東京にあるため「すぐに縫製してほしい」というクライアントの依頼に応じられるのがマーヤの強みだ。職人さんたちの手は絶え間なく動く。売上額は全員にオープンにしていて、それが経営者と社員の信頼関係にもつながっている。

マーヤは3代続く家族経営。技術力が評価されている会社のため、「今のままの経営でいいんじゃない?」と言う社員が多いという。
だが、時代と共に縫製業も変化しなくてはならないと感じているマーヤ3代目の菅谷正さんは、そこに疑問を感じている。

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専門家たちからのリアクションは「3代続いたマーヤのストーリーを外部に発信すると、お客さんを魅了することができるのでは?」「技術者の人材育成がとても優れているので、そのノウハウを近隣のアジア諸国の工場へコンサルティングするのは?」「何かを変える時、小さくてもいいから成功体験を重ねていくと、他の社員の方も納得してくれる」といったもの。

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熱心に話を聞き続ける菅谷さんも乗せ、バスは次の目的地である椎名製作所へ向かった。

悩んでいるとき、誰かが手を伸ばしてくれたら

椎名製作所はメイドインジャパンの金属小物加工製作所だ。


手作業でカスタムメイドされたアクセサリーや大きな安全ピン。詳しい製造工程は企業秘密のためここには書けないが、専門家や私たちはふたりの技術者のクリエイター魂を目にするなか、

「ものづくりは、楽しい」

ふとそう思わされた自分に気づいた。

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製造工程も興味深いものだったのだが、楽しそうに説明してくれる技術者のふたりの姿が印象に残った。ワークショップも実施しているらしく、参加したくなる。

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どうしてこんなに楽しいファクトリーが知られていないのか?この疑問を感じたのは私だけではなく、専門家たちも同様だった。その答えは、意見交換の場である千寿てまり工房のカフェに着いて明らかになる。

3つのファクトリーの経営者が、自らの事業が抱える課題を説明し、5人の専門家がさまざまな観点からアドバイスする。先ほど気になっていた椎名製作所への疑問が解けたのはそのときのことだった。

「経営が非常に厳しい状態で、後継者をどうするかという問題もあります。会ってくれた人はファンになってくれるのですが…」

そう述べる椎名製作所代表の椎名さんの表情は暗い。椎名製作所の魅力を知った後なので、専門家たちの「知られていないのはもったいない」という意見は一致していた。]

「Youtubeなどのメディアを活用し、製造工程を外部に見せたら絶対ファンが増える」という意見も出たが、製造工程は企業秘密であり、簡単に見せられるものではないそうだ。

金属加工業界の現状は、それだけでは食べていけないほど厳しい。「現在、加工業者からメーカーにシフトしようとしている」と椎名さんは専門家たちに打ち明けた。

話を聞いた後、GOOD SURVIVE PROJECTを運営するロフトワークの二本柳さんが口を開いた。

「失敗談も共有していきましょう。事業を成功させるためにどうすれば良いかを考えるには、知ってもらうことが重要です」

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GOOD SURVIVE PROJECTは終わらない

課題の解決方法をまだ見出せないのは、椎名製作所だけではない。旭染工もマーヤも、アドバイスをもらいながらすぐには決断しきれない。経営者の判断にはそれぞれの複雑な事情が絡む。

意見交換の場には、足立区産業部長の姿もあった。専門家や事業者ととても近い距離で、意見交換している姿を見つめている。

専門家たちはアドバイスの後、今回のファクトリーツアーの感想を述べたが、そのなかに皆が大きく頷いたとある一言があった。

「事業の期待値をすり合わせして、ものづくりで横のつながりを広げていきたいですね。自分たちが求められているものを明確にすることが必要だし、それがわかった上で、私たちもどのようにできるか一緒に考えていきたいです」

GOOD SURVIVE PROJECTは始まったばかり。まだ未知数なのだ。

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ロフトワークの二本柳さんはこう述べる。

「今回のファクトリーツアーで、初めて専門性のある方に加わってもらう試みをしました。知恵を共有しポジティブな意見をもらえたことでGOOD SURVIVE PROJECTはパワーアップできたように感じています。しかしこれで終わりではありません。今後も足立区と私たちは、コラボレーションの機会をどんどん作ります」

これまで悩みを重ねてきた事業者たちの挑戦。それが数回のプログラムで解決するわけでは当然、ない。GOOD SURVIVE PROJECTは、これからも続いていく。続いていくからこそ、事業者ひとりひとりに価値を生んでいく未来につながるのだろう。

専門家

平林 和樹
株式会社WHERE代表/ LOCAL LETTER
インターネット最大手にて、フルスタックエンジニアとして全社MVPを受賞。単身カナダへ渡航したのち、50社以上のITコンサルティングを経て株式会社CRAZYのオリジナルウェディングの事業推進に従事。その後、株式会社WHEREを創業し、「地域と人のつながりにイノベーションを起こす」ことをミッションに掲げ、自治体と共に地域と人の関係性づくりを実施。また、48番目の地域を目指して、日本を横串に地域のノウハウと人脈を届ける地域コミュニティメディア「LOCAL LETTER」を運営。リアルな場作りでも人口約900人の村で体験型民泊施設を運営など、オンラインからオフラインまで地域と人の関係性づくりに奔走。
https://localletter.jp/

山岡 礼佳
海外通販サイトPinkoi(ピンコイ)Account Manager
Pinkoi(ピンコイ)は、2011年に台湾でスタートし、現在は台湾・香港・米国・中国・タイなどアジアを中心に世界中のデザイナーと購入者を繋ぐ、デザイン商品のオンラインマーケットプレイスです。世界中のデザイナーの活躍の機会を広げ、暮らしの中に素敵なデザインを提供するという理念のもとにサービスを行っています。
https://jp.pinkoi.com/

友廣 裕一
一般社団法人つむぎや代表
大学卒業後、日本全国70以上の農山漁村を訪ねる旅へ。東日本大震災のあとは宮城県石巻市・牡鹿半島の浜の女性たちと弁当屋「ぼっぽら食堂」や、鹿の角を使ったアクセサリー「OCICA」などの事業を立ち上げる。2015年よりアジアのデザイナーたちと三陸沿岸の事業者が深くつながることで世界への扉を開く「DOOR to ASIA」、及び派生プログラムも各地で展開中。他にも農業、水産業、医療・福祉など様々な分野で、専門性を持つ仲間たちと共に全国各地で事業を行っている。
http://tumugiya.org/

堀田卓哉
株式会社 Culture Generation Japan代表
大学卒業後、株式会社セリク入社。フランスの技術や商品を日本企業に導入する仕事に携わる。その後モナコ大学でMBAを取得し、2006年より株式会社ホンダコンサルティングに。HONDAグループの経営再建を行う。2011年、株式会社Culture Generation Japanを設立。東京都美術館との『Tokyo Crafts&Design』ほか、伝統工芸品やその技術を国内外へ広く紹介している。TCI研究所・西堀耕太郎氏と共に、中小機構による「Next Market In」事業を進める。2016年には、パリ・マレ地区に日本の技術をフランスに発信する「アトリエ・ブランマント」設立に参画する。
http://culgene.jp/

鶴本晶子
株式会社箔一 ブランディングマネージャー
女子美術短期大学卒業後、ニューヨークと東京を拠点に、現代美術家コラボレーターとして、作品制作、マネージメント、企画に携わる。2007年から2014年まで「SUSgalleryブランド」マネージング&クリエイティブディレクターとして、世界的に例を見ないチタン製ハイエンドテーブルウエア「SUSgallery 真空チタンカップ」のブランディング、商品開発、製造管理から流通開発までをトータルで行い、日本国内のテーブルウエアブランド、一流流通を作り上げる。2015年より富山県高岡市の株式会社ナガエを母体とする「NAGAE+」の取締役ブランドマネージャーに就任し、高岡の脈々と受け継がれてきた金属加工技術を軸に、メイドインジャパンのプラットフォームブランド創りをスタートさせる。
https://www.hakuichi.co.jp/

事業者

旭染工株式会社
創業65年の足立区にある染め物工場、伝統技法の「注染」という技法を用いて東京本染ゆかた・てぬぐいを制作している
http://www.asahisenko.jp/

株式会社マーヤ
弊社は国内高級婦人服ブランドの衣料品製造を請け負う縫製工場です。お客様から生地、パターン、仕様書をお預かりし、裁断・縫製・プレスして納品する製造のプロ集団です。
https://marya.tokyo/

有限会社椎名製作所
2020年に創業70周年を迎えるアクセサリーの金属加工専門の製作所。東京都足立区に自社工場を持ち、金型の設計からプレス加工と仕上げ(除くめっき加工)まで一貫生産。これまでは、ブランドメーカーや商社の注文でアクセサリーやパーツを製作することが主体だったが、2019年より一般の方々への直接販売を開始。
https://shiina-factory.com/

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