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レナード・バーンスタインを聴く(3)ハイドンの交響曲
あらかじめお断りします。私はレナード・バーンスタインのファンではありません。レニーを心から愛する方は、気分を害される内容ですので、以下の文面を読まないことをお勧めします。また、批判的なコメントに返事は致しませんので、お含みおきください。
私のCD棚には、バーンスタインのCDが何枚かあります。久しぶりに、それらを丁寧に聴いてみました。
さて、3回目として、バーンスタインのハイドンの演奏を取り上げます。
彼は意外にハイドンの録音を積極的に行っています。交響曲だけでなく、ミサ曲なども録音しているところから見て、バーンスタインお気に入りの作曲家だったのでしょう。
1959年から1979年にかけて、ニューヨーク・フィルハーモニックと、ハイドンの一連の主要作品を録音しました(旧録音と呼びます)。
バーンスタイン/ハイドン・ボックス(12CD)|HMV&BOOKS online NEWS
また、1980年代に、ウィーン・フィルといくつかの交響曲やオラトリオ「天地創造」などを録音してます(新録音と呼びます)。
新旧録音を、第94番(通称「驚愕」)で聴き比べてみました。
<旧録音>ニューヨーク・フィル・・・1971年12月(CBS)
CDで聴くと、ニューヨークの録音はマイクが楽器に近いようで、指揮者の位置から聴いている印象です。解像度は良いですがハイ上がりで、ややうるさいサウンドです。生々しくて、セッション録音なのに、ライブみたいです。私はアンプのTREBLEを下げて、MIDを厚くしてちょうどいい感じです。
<新録音>ウィーン・フィル・・・1985年10月のライブ録音(DG)
クラシックファンには、おなじみのグラモフォンサウンド。安定です。前者が「明」だとすれば、こちらは「やや暗」。落ち着いた渋い音色です。
第一楽章 Adagio - Vivace assai
ニューヨーク・フィルは、バーンスタインのやりたい音楽を、実に表情豊かに奏でます。コントラバスがブリンブリン鳴る上に、木管が小鳥のように歌うのは愉快です。楽しく弾いていているのに、肩の力を抜いた感じがいい。ウィーン・フィルは気品があります。バーンスタインの「ウーン」という唸り声が聞こえると、次第にエンジンがかかります。どこまでもノーブルで取り乱さない。ピラミッド型のサウンドは魅力的ですが、バーンスタインらしさが全開なのはニューヨークの方です。
第二楽章 有名なアンダンテ。
意外や意外。ニューヨーク・フィルとの演奏の方がウィーン・フィルよりかなり遅いのです。
(旧)7'23
(新)6'33
つまり、バーンスタインっぽいのはニューヨーク・フィルの方です。コントラバスは音価をしっかり保って弾いているので、引きずっているような音楽です。
ウィーン・フィルのテンポは、きわめて模範的です。フォルテの箇所はバーンスタインらしい「ズドン」が聴けたり、弱音の響かせ方に特徴がありますが、ウィーン・フィルの美しい響きに気持ちが持っていかれます。
第三楽章 メヌエット
ニューヨーク・フィルは長年の付き合いから、バーンスタイン節が良く理解できているので、ちょっとしたタメや表情付けなどを「マエストロ、こうですよね!」てな感じで、ばっちり決めます。一方のウィーン・フィルは、バーンスタインのやりたいことをイマイチ汲み取れていないように思えます。明らかに戸惑っています。もしくは「そんなドン臭いことできるかよ!」と思ってわざとやっていないのかもしれません。
第四楽章 フィナーレ
ニューヨーク・フィルは実に軽やかで、弾むようなリズムで開始して、その後もノリの良さを感じます。キレもいい。コントラバスのゴリゴリいう音がカッコいいです。ウィーン・フィルは、まず美しさと重厚さが前提に合って、その上にバーンスタインの音楽をやってます。ニューヨーク・フィルが「ジャン!」となるところ、ウィーン・フィルは「ズドン!」と鳴ります。スピード感こそニューヨークに負けますが、サウンドがゴージャスなので、聴いているときの充実感があります。
<総括>
両者とも、バーンスタインの「ハイドン愛」を強く感じます。重々しいテンポで、時折ネチッこいタメがあったりしますので、古楽器演奏を聴き慣れた人には、濃厚過ぎて胃もたれするかもしれません(笑)。
ハイドンの交響曲を実に雄大に演奏するバーンスタイン。私は新旧どちらの演奏も楽しいです。ハイドンのポジティブさやユーモラスな側面が、指揮者バーンスタインという拡大鏡で、大きくクローズアップされています。
どちらか一方を選ぶとすれば、ウィーン・フィル盤でしょうか。録音がいいのも理由です。ニューヨーク・フィル盤は、バーンスタインの音楽性が前面に出ているのが魅力。むき出しのバーンスタインがお好みの方は、こちらの方を取るでしょう。ただ、旧盤の惜しいのは録音。ハイ上がりでノイズ多めです。リマスタリングのせいかもしれません。
コンセルトヘボウ管弦楽団とのシューベルトの交響曲演奏でも感じたのですが、バーンスタインが名門オーケストラを振ると、エネルギーが二乗、三乗され、爆発的な音楽になります。その分、バーンスタインの個性がオーケストラサウンドに埋没する箇所もあります。
私にとって、バーンスタインは好きな指揮者ではありませんが、ハイドンは楽しく聴かせていただきました。
ご馳走様でした。