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ジャズが聴けることの喜び

大学時代、とにかく音楽を聴きまくった。1990年前後は、割高なCDよりも、中古のLPレコードを買うことが多かった。これが今の資産になっている。

クラシック一辺倒だった私に、友人のA君がジャズの素晴らしさを熱く語った。彼に借りて聴いたCDが、マイルス・デイヴィスの「バクス・グルーヴ」。ジャズ・ファンなら知らぬ人のいない名盤。マイルスとセロニアス・モンクとの因縁のレコーディングである。

このアルバムは、ジャズを初めて聴く人向きとは言えないかもしれない。もし自分なら、耳あたりの良いオスカー・ピーターソン・トリオあたりを勧めるだろう。しかし、A君は、クラシックのヘビーリスナーの私に、ジャズの素晴らしさを知って欲しくて、敢えてこのCDを貸してくれたのだと思う。

彼の狙いは的中。このアルバムが20歳の私に与えたインパクトは強烈だった。何とも言えない緊張感がみなぎっている。セロニアス・モンクの鳴らす奇妙なコード、そしてマイルス・デイヴィスの存在感にしびれた。

「これがジャズか!」と膝を打った。

時代はレコードからCDへの移行期。レコードの生産はほぼ終焉を迎えていた。

「今のうちにレコードを買わなければ!」

大学四年の年末から正月にかけてアルバイトをして稼いだ金を握りしめて、当時、新星堂のオリジナル企画で販売されていたLPレコードを数枚買った。

クリフォード・ブラウン「スタディ・イン・ブラウン」/ソニー・ロリンズ「サキソフォン・コロッサス」/コールマン・ホーキンス「ハイ・アンド・マイティ・ホーク」/アート・ファーマー「モダン・アート」/カウント・ベイシー「エイプリル・イン・パリ」などなど

その後も秋葉原の石丸電気に出向き、OJC盤などの輸入盤を買い漁った。マイルス・デイヴィス、MJQ、ビル・エヴァンス、ジョン・コルトレーンなど。

ありがたいことに、私の所有するジャズレコードに一枚も駄作がない。油井正一さんの著書を頼りに買い求めたものだから当たり前だ。

クラシック音楽では、楽譜に忠実に演奏するのが基本。演奏家によって解釈に差は出るものの、おしなべて出てくる音は同じ。複数の奏者による演奏では、バランスや調和が大切になる。

対して、ジャズはオリジナリティを重視する。プレイヤーの個性と個性のぶつかり合い、才能のある者同士が凌ぎ合う真剣勝負。

クラシックでは、学術的な「正しさ」を問われることがあるが、ジャズにはそれが無い。むしろ、誰もやったことのないことをやったもん勝ちみたいなところがある。

クラシックに凝り固まった私の価値観をぶち壊してくれたジャズ。これだから音楽は楽しいんだ!

昨日、久しぶりに「サンジェルマンのジャズ・メッセンジャーズ」のレコードを聴いた。年末にエレガント・ピープルさんでメンテしてもらったテクニクスSL-1200Mk3は絶好調。FOCAL Chora806からメンバーの熱気がほとばしる。

1958年。このライヴを聴いたパリの人々の衝撃は相当なものだっただろう。プレイヤーの汗が降りかかってくるような壮絶なプレイ。洗練さやおしゃれさは皆無の剥き出しのニグロ・スピリット。これを聴かずして、「ファンキー」なんて口にしてはいけない。

年末からメンタルが沈んでいたけれど、これが聴けるなら大丈夫かもしれない。そう思った。

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